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「家紋大図鑑」で俯瞰力が身に付き、アイディア出しに活かせられている------アノヒトの読書遍歴:石黒謙吾さん(後編)

「著述家」、「分類王」として活動し、プロデュース業などさまざまな分野で活躍を続ける石黒謙吾さん。遠藤周作さんの『ぐうたら人間学 狐狸庵閑話』から人生観を学び、筒井康隆さんの『乱調文学大辞典』から発想を身に付けたそう。そんな石黒さんに、前回に引き続き、人生において影響を受けた本をお聞きしました!

------石黒さんの中で、「考え方」などで影響を受けた本などはありますか?
「そうですね、布施英利さんの『構図がわかれば絵画がわかる』でしょうか。この方は、芸大の教授で解剖と美術をつなげたり、おもしろい作品がたくさんありまして僕は大ファンなんです。この本は、ものの考え方とか見方に対して本当に目から鱗の分析、それから構造とは何かということを教えてくれる素晴らしい本だと思います」

------ぜひこの本の魅力的な部分について教えてください!
「なぜ僕がこの本をおすすめするかというと、僕は分類王という名前でクリエイションをやっていまして、それは、世間にある森羅万象さまざまなものを円グラフや棒グラフなんかのいろいろなチャートを使って、分析しなくても良いことを分析し、それを笑いに落とすややこしいクリエイションなんです。その中で、この本にある構造学的なことと分類王のクリエイションは非常に近いんですね。いつもは無意識なことを意識していくことが構造の分解であり分析だと思うんです。その点でいうと、布施さんは僕の知りうる限り日本でトップだと思うくらいに非常に明晰というか、観察眼、分析眼が素晴らしいと思います。布施先生の著者はもちろん笑いにはなっていないわけですけど、この本の中で非常にカジュアルに名画についてのいろいろな見方をしていきます。点と線とか、遠近法、二次元、三次元、四次元それから光や色についての構図との関わりとか...さまざまな論を展開されていて、素晴らしい本です」

------美術の知識がなくても読める感じでしょうか?
「この本自体は、非常にわかりやすく一般の方でもわかるように書かれていて、まさに、構図がわかれば絵画がわかるっていうことなんですが、じゃあ美術のファンが読む本かといえばそういう本ではないと思います。絵を知らないとか作家を知らないと楽しくないかもなって思うかもしれませんよね。たとえば、日本酒飲んだことないから、日本酒の名前を言われてもわからないとか。でもこの本がすごいのは『この絵はこういう構造なんだよ』っていうところから入っているから、絵に興味がないくらいの人の方がおもしろいかもしれません。僕みたいにもともと知っていて興味がある人より逆の人のほうが『絵画って深い』って思うような気もするのでお薦めです」

------この本を読んで変わったこと、というのはありますか?
「この本を読んで変わったことは、絵画を見たらエモーショナルな感覚として素晴らしいなって思うところは今までと変わらないんですが、それとは別方向で『たぶんこういう効果を考えながら描いてるんだ』と、美的感覚と構造的な見方、完全に二方向で見る癖がつきました。たとえば、キリストがはりつけられている十字架に対して、画面がどう分けられて残りの空間に何が描かれているか、それで人の心が安定したり不安定になったりだとか、そういうことはこの本を読むまではわからなかったです。布施さんの頭の中ではどういう風にものを見ているのか興味深い。僕も自分の中でクリエイションのイメージを固めていくときに、こういう風に気持ちが動くんじゃないかとか、配置を考えることは以前にも増してやるようになりました。自分の計算やテクニカルな部分の幅がさらに広がったという点で、僕の中に麻雀の『役』が増えたって感じですね」

------なるほど。ほかにもおすすめの本があればぜひご紹介ください!
「『家紋大図鑑』はぜひおすすめです。なぜ僕がこの本を使い倒しているかというと、僕は家紋が好きでですね、家紋を使っていろいろなクリエイションに落とし込んでいるんです。じゃあどんなことかというと、本物の家紋を全部いろんな企業に当てはめてみる。実際ですね、日本航空の昔のロゴマークは鶴丸って言って本物の家紋なわけですよ。三菱も三菱っていう家紋なんですけども、家紋自体が企業のロゴマークになっていることが多々あるんですね。そこで僕の場合、三つ巴って渦巻いてるような家紋を洗濯機のメーカーにしてみるとか、犬の行動に応じてこの家紋を使いましょうというクリエイションなどさまざま作っているんです。一般の人がそんなことするわけでもないんですが、これを見て家紋一個から想像できることを楽しんだりとか...知的でしかも1,800円で何なら永遠に楽しめるっていう、セルフクリエイションみたいな楽しみ方ができるのでぜひ、一家に一冊家紋大図鑑欲しいと思うんですよね」

------どんな方におすすめでしょうか?
「これはたぶんデザイナーの人とかの発想にはすごく向いていると思います。この形を見ることで、違う形を思いつくとか。一般企業の方でも何か企画を任されたときに、似たようなものを違う形にするっていう場合とか、どう考えたらいいかまったく手立てが思いつかないときには、花が細かく分かれている菊の紋と荒っぽい菊の紋を見て『あ、もっと細かく分ける手もあるのかな』って考えさせてくれるとか。白と黒が反転している紋だったら『真逆から見たほうが良いのかな』とか、この紋を見ている中で考え方に変化が出てくると思うんですよね。そういう意味では、企画を立てたり物の見方を変えたいって方にすごく向いていると思います」

------石黒謙吾さん、ありがとうございました!

<プロフィール>
石黒謙吾 いしぐろけんご/1961年金沢市生まれ。著述家・編集者・分類王。高校時代はキャンディーズの追っかけにすべてを賭り、高校卒業後に上京。芸大浪人生活を始めるもドロップアウト。絵を描くことを諦め編集の道に進むべく「日本ジャーナリスト専門学校」に入学。卒業後は講談社でライターの見習いを経験したり、編集者としての仕事も始める。『Hot Dog Press』で契約編集者として多忙な日々を送り32歳で退職、フリーに転身。書籍の執筆、プロデュース、構成・編集を始める。2001年、著書である『盲導犬クイールの一生』が刊行となり、徐々にヒットし映画化される。今年6月にプロデュース・編集を手掛けた『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』が各メディアで取り上げられ話題となる。

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