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自分の体験できない女性視点の作品をよく読む------アノヒトの読書遍歴:松居大悟さん(後編)

映画監督でありながら脚本家や俳優として、さまざまな作品に携わっている松居大悟さん。「暴走」をテーマとし、前回は「笑い」が人を暴走させるというお話とともに松居さんおすすめの本を紹介していただきました。今回もまた引き続き、人が「暴走」する姿を描く作品についてお話を伺います。

------「笑い」のほかに人を暴走させている作品にはどんなものがありますか?
「自分の書いたもので恐縮なんですけど、原作・松居大悟、漫画・オオイシヒロトさんの上下巻で『恋と罰』という漫画があります。これは『恋』が人を暴走させるという作品で、主人公のアラサー女性が20代の男の子に恋をして、その男の子もまた別の子に、とみんなそれぞれ違った恋の暴走の仕方をするんです。アラサー女性に関しては、どんどん妄想してそれを相手に押し付けてしまう、不思議な暴走の仕方なんです。でも、勝手に妄想したりというのは、みんなあるような気がするんですよね。『罰』については、その妄想を行動に移してしまうことで罰せられるのかどうか、読み進めていくとわかります」

------主人公のアラサー女性はどんな人物なんでしょうか。
「主人公は百合子といって、小学生の塾講師をやっているんです。本来の自分の夢も忘れてしまうくらい小学生に振り回される生活の中で、週に一回だけ駅前のラーメン屋に行くのが彼女の楽しみで。そのラーメン屋で働いている男の子の順は、いつも『お疲れ様です』ってひとこと言ってラーメンを出してくれるんですが、百合子が疲れて見えたときに具をたくさん乗せてこっそりサービスしてくれたことがあって。それが百合子にとってはすごくうれしくて、ラーメン屋を拠り所として通うんです。百合子には彼氏がいるのにも関わらず、どんどん刺激を求めていってしまう」

------読み終わりの印象はいかがでしたか?
「スッキリすると思います。僕は漫画を作ってコミックスとして出すのは初めてなんですけど、恋をしたときに盲目になる様子を、漫画でしかできない表現で出していきたいと思っていたんです。オオイシさんのアイデアで、恋をしている百合子には順しか見えていなくて、ほかの登場人物が全部シルエットでしかない、そして順の視点からは百合子がシルエットになる。そうして視点が変わりながらも、それぞれが自分の好きな人しか見えないという話が連なっていくので、同じ感覚を追体験しながら読んでほしいです」

------そういった女性視点の作品はよく読みますか?
「女性作家の作品は好きです。女性ならではの感覚や細かい描写や景色など、女性作家が描くリアルな話を読むのがすごく新鮮です。千早茜さんや津村記久子さんの作品とか。千早さんの書かれている小説で『男ともだち』という作品で、これは僕から見ると『友達』が人を暴走させるような話で、読む人によって解釈の仕方が全然違うと思います」

------「友達」が人を暴走させる?
「ふつう『友達』というのは暴走しないように仲間で助け合ったりするじゃないですか。でもこれは、男女の友達なんですよね。異性に対しての友情は成立するのか、そういう理論に近い内容です。主人公の女性と男友達のハセオとの関係性を描いているんですが、主人公目線で描かれているので、ハセオの感情っていうのは見えないんですよね。だから、男性側から見たらハセオは女の子のこと好きなんだと思っても、女性側から見たらハセオは別に彼女を好きじゃないって受け取ったり。個人差はあるけど、異性の友達に対する考え方でかなり論争が起きると思います」

------人によって読み方が違うということですが、松居さんの率直な感想をぜひ教えてください。
「ハセオっていう男の子の気持ちが勝手によく分かって胸が苦しかったです。この二人の関係は、表現として正しいのかわからないけど『友達以上恋人未満』なのかなと。こういう感覚って絶対に人に言えないような気持ちになりますけど、ここでは相手に対する気持ちが書かれているので、読んでて背徳感があります。僕は絶対にハセオは主人公のことが好きだろうなと思って読み進めていくんですけど、一人で読んでいると勝手に友達という概念が勝手に形成されていくんですよね。それが不思議だなと思いつつ、最後はすごく軽やかで気持ちが良いので、ぜひ読んでドキドキしてほしいです」

------松居大悟さん、ありがとうございました!

<プロフィール>
松居大悟 まついだいご/1985年福岡県生まれ。映画監督、劇団ゴジゲン主宰。2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、映画『スイートプールサイド』、『私たちのハァハァ』、『アズミ・ハルコは行方不明』など手掛けるほか、クリープハイプ、MOROHA、銀杏BOYZなどのMVやテレビ東京ドラマ24『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』メイン監督を務める。最新監督作『アイスと雨音』が2018年公開予定、ゴジゲン第14回公演「くれなずめ」が10~11月に東京・京都・北九州で上演。

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