「我こそはブス」という説明が必要? 厳しすぎる「ブスハラ」の実情

ブスの本懐
『ブスの本懐』
カレー沢 薫
太田出版
1,080円(税込)
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 「セクハラ」に「パワハラ」「マタハラ」というよく聞くものから、最近では日本人が麺をすする音を外国人が嫌悪する「ヌーハラ」なる言葉まで登場するなど、話題を集める多種多様な"ハラスメント"。実は「ブスハラ」も存在するというのです。

 「『ブスハラ』はあまり使われない言葉である。しかし、言われないから"ない"というわけでなく、確実に存在するはずなのだが、ブスであることは一目でわかっても、『ブスハラ』というのは実にぼんやりしている』」(本書より)

 そう指摘するのは、"ブスに厳しいブス"というコラムニスト・カレー沢薫氏。カレー沢氏による本書『ブスの本懐』によると、容姿によるハラスメント「ブスハラ」は、大人になってから受けたことはなく、より正確にいうと"気づいていない"というのです。

 「子どものころはブスなら男子に『ブス』とからかわれたり、いじめられたりもしただろうが、大人になるとブスに対する男性の態度は『無視』に変わる。つまり美人は厚遇だが、ブスは冷遇ですらなく、必要がない限り関わろうともされないため、差別ではあるが、これがハラスメントにあたるかが微妙であり、されても気づきにくいのである。」(本書より)

 加えて、厄介なのは、明白な容姿によるハラスメントを受けていたとしても、「セクハラ」なら「女性」、「パワハラ」なら「部下」といように、その立場をはっきりさせる必要があり、「ブスハラ」を訴えて認めさせるのは想像以上に「難易度が高い」といいます。

 「ブスハラについて訴えようとしたら、まず社内に『ブス』という立場があり、『我こそがそのブスである』という説明から始めなければならない。この時点で、かなりくじける作業だ。それに、『女性が女性ゆえにこんな嫌な思いをしている』と言えば、捨て置けぬ問題に聞こえるが、『ブスがブスゆえに損害を被っている』と言ったら、『ポリ袋に入ったカメムシが自分の臭さで死んだ』みたいな深刻さに欠ける。そして、この『真面目に取り合ってもらえない』こそが、最大のブスハラだったりするのだ。」(本書より)

 本書によると、そんな「ブスハラ」の最たる例として、かつて女性車両が登場した際のインタビューだといいます。「安心して乗れます」と至極全うに答えただけなのに、「そもそもお前には触らねえよ」と罵倒されてしまうのです。

 さらに、ブスババア(BB)ともなると、若くてかわいい女性に、たとえ理論的に悪い部分を指摘したとしても、「若くてかわいい女へのやっかみ」で片づけられてしまうことが非常に多く、「真面目に取り合ってもらえない」ばかりか、「笑いものにしてもいい」考え方さえもある風潮だといいます。

 「多くのBBが『俺達は......無力だ......』となってしまい、そう言われるのが嫌で黙るし、『BBは考えることをやめた』状態になってしまう。それでも屈しないBBは『君が話を聞くまで、しゃべるのをやめない!』と相手が真面目に取り合うまで言い続ける。」(本書より)

 "ブス"という言葉をこれまでかと多用することで、もはやブスの正体が何かをつかめないようになっているという本書。とはいえ、カレー沢氏の指摘によって浮かび上がった「ブスハラ」は、各人の心にとどめておくべき深刻な問題といえそうです。

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