あなたはものの数を上手に数えていますか?

日本の助数詞に親しむ―数える言葉の奥深さ―
『日本の助数詞に親しむ―数える言葉の奥深さ―』
飯田 朝子
東邦出版
1,512円(税込)
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 花一輪、豆腐一丁、寿司一貫など、私たちが普段何気なく使っている、数えるための言葉「助数詞」。助数詞は、数だけではなく、数えるものの様子を伝える役割も果たしています。

 日本語で「犬を二匹飼っています」と言うと、聞き手は、中型犬より小さい犬を思い浮かべるし、「犬を二頭飼っています」と言ったら、大きくてたくましい犬を想像するでしょう。英語の、"I have two dogs"では、犬の数しか分からないので、どんな犬か説明したいなら、 "I have two big dogs" のように形容詞が必要になります。日本語の助数詞は、たった一文字でどんな犬かまで伝えることができるのです。

 同じものでもその時々の様子で違う言葉で数えることを、魚の数え方を例に考えてみましょう。生きている魚は「一匹」ですが、獲物として水揚げされると、「尾」と数えて売られます。マグロなど大型の魚は、水揚げされると「本」。切り身になってパックされると、「1パック」と言い、干物は「枚」、小魚をまとめて串にさして「串」や「竿」という単位で数えます。「ものの特徴を端的に描き、時には情緒あふれる表現で、話し手の意図を巧みに伝える助数詞は、数える対象を引き立てる、"言葉の名脇役"とも言えましょう」と著者の飯田さんは述べています。

 また、「一個」なら「いっこ」と読み、「一切れ」なら「ひときれ」のように、おなじ「一」でも読み方が違うのも日本語の助数詞の特徴です。「いっこ」と読むのは、「いち、に、さん、・・・」という中国語や朝鮮語の影響をうけた読み方で、「匹、頭、台、通、本、個、枚」のように漢字一字の音読みで、数と切り離すと意味が分からなくなる助数詞と使われます。「ひときれ」は、大和言葉の「ひ、ふ、み」の数え方で、「袋、山、皿、束、かご、盛り」のように数が付かなくても独立して使える語を付けて使います。ほかに、外来語を使って「ワンピース」や「水1カップ」などの表現も使われています。数の読み方に三種類もある日本語は世界でもまれな言語と言えるそうです。

 飯田さんによると、助数詞にはもうひとつ、巧みな"離れ業"があるといいます。「日本語では、時として助数詞の情報だけがあれば、数えるものが出てこなくても何を数えているのかわかることがあります」

 例えば、駅で「新幹線の改札機には二枚同時に入れてください」というアナウンスを聞けば、「切符」のことを言われているのだとわかります。「無理をせず、一台お待ちください」は次の「電車」を待ちなさいということです。もしこれが、「新幹線の改札機には二つ同時に入れてください」とか「無理をせず、一個お待ちください」という言い方だと、何を入れるのか、何を待つのかと戸惑うでしょう。「適切な数え方を使って初めて、情報を保ちながら数える対象を効率よく省略できるようになるのです。」(本書より)

 日本語には実に約500種類もの助数詞があるとか。「数え方に関心がない人でも50種類くらいは使い分けている」というのが助数詞の研究で言語観察をかさねる著者の感想です。本書では、人の数え方からメールの数え方まで258種類の助数詞が取り上げられています。

 ご飯や汁物は「一杯」と呼ぶことが多いですが、「ご飯一膳」、「お吸い物一椀」の方が美味しそうに聞こえますね。日本語の繊細さや多彩さを伝える助数詞には、「日本人が文化や生活の中ではぐくんできたものの『捉え方』が凝縮されている」と著者は述べています。

 助数詞を使いこなすと、言葉がより魅力的なものになりそうです。美しい日本語を目指すなら、この本で助数詞を学んでみてはいかがでしょうか。

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