漫画『バガボンド』にも登場、宮本武蔵の息子・伊織が実はスゴい

宮本伊織
『宮本伊織』
大塚 卓嗣
学研マーケティング
1,458円(税込)
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「二刀流」で有名な剣豪・宮本武蔵。最近では漫画家の井上雄彦さんが『バガボンド』(講談社刊)で、その生き様を知った方も多いのではないでしょうか。

 武蔵と言えば決闘。ライバル・佐々木小次郎を倒した巌流島の決闘、一つの流派を壊滅に追い込んだ吉岡一門との戦いなど、数々の名場面は大河ドラマや時代劇の格好の題材となり、何度も映像化されてきました。しかし、これらの決闘後、武蔵がどんな後半生を送ったのかはあまり知られていないようです。

 実は、武蔵は中年になってから、養子を迎えています。その人物こそ、本書『宮本伊織』の主人公、宮本伊織。伊織の出自については諸説ありますが、本書では、伊織は武蔵の甥という説をとっています。

 著者の大塚卓嗣さんは、デビュー前はゲーム会社に勤務し、格闘ゲームの開発を手掛けていたという異色の経歴を持つ人物。第18回歴史群像大賞に入賞し、2013年『天を裂く 水野勝成放浪記』でデビュー、長編2作品目となる本作では、『武州傳来記』、『鵜の真似』などの史書を典拠としながらも、オリジナルの解釈で、伊織と武蔵、異色の父子のサクセスストーリーを描いています。

 庄屋の次男に生まれた伊織が、叔父・宮本武蔵の養子となり、小笠原家に仕官を命じられるところから物語は始まります。小笠原家は「有職故実」を後世に伝える「小笠原流礼法」の宗家であり、武家礼法の名門中の名門。伊織は国の柱石となる逸材と期待され、なんと15歳でいきなり700石という重役クラスの高禄で召し抱えられます。その後も順調に昇進し、20歳の若さで家老職に大抜擢、驚くべきスピードで出世街道を上り詰めますが......。

 物語には、時代の流れに翻弄された、徳川家康の孫娘・千姫も登場。武蔵と、徳川将軍家の姫君・千姫、意外な組み合わせのように思えますが、幼くして豊臣家に嫁ぎ、大坂城落城とともに実家に連れ戻された千姫は、その当時、姫路藩主・本多忠刻と再婚していました。実は、武蔵はかねてより本多家とも関係を築き、千姫とも交流があったのです。人形のように生きてきた千姫が、武蔵の生き様に影響を受け、自我に目覚めていくさまが描かれているのも見逃せません。

 武蔵は、今年400年を迎える「大坂夏の陣」には、大坂城に一番乗りを果たした水野勝成の客将として、徳川方で参戦しています。そんな武蔵が、水野家・本多家など西国の有力大名と関係を結んだ理由とは? 伊織が異例の立身を果たした理由とは? 謎に包まれた偉大な剣豪・武蔵の知られざる後半生を、養子の伊織目線で読み解いてみてはいかがでしょうか。

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