『花子とアン』にも登場 吉原遊女の悲惨な実態

吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)
『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)』
森 光子
朝日新聞出版
691円(税込)
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 大好評のまま最終回を迎えたNHK朝ドラ『花子とアン』。吉高由里子さんが、『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子さんを演じ、平均視聴率は21%にも達しました。

 主役の花子をしのぐほどの人気を見せたのが、仲間由紀恵さんが演じた「蓮さま」こと葉山蓮子。花子とは"腹心の友"だった彼女は、実在の歌人・柳原白蓮(やなぎはらびゃくれん)をモデルにした人物です。

 白蓮は、本名を燁子(あきこ)と言い、大正天皇の生母・柳原愛子(なるこ)を叔母に持ち、自身は大正天皇のいとこにあたる高貴な生まれ。26歳の時に、親子ほど年が離れた福岡県筑豊の炭鉱王・伊藤伝右衛門に嫁ぐも、36歳の時には年下の法学士・宮崎龍介と駆け落ち......と、波乱万丈な一生を送った人物です。出奔の際には、元夫との愛のない結婚生活や、同じ屋敷に妾同然の女中と暮らすという妻妾同居の環境を告発する離縁状を『大阪朝日新聞』に公開したことでも注目を集めました。

 そんなドラマチックな私生活が注目されがちな白蓮ですが、実は廃娼運動にも関わっていたことをご存知でしょうか?

 白蓮に救われた遊女の1人が、書籍『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日』の著者・森光子(※女優の森光子とは同姓同名の別人)です。ドラマでは、光子がモデルの遊女・雪乃役を壇蜜さんが演じていたのを覚えている方も多いかもしれません。

 光子は19歳の時に、亡父の借金のために1350円で身売りすることになります。公務員の初任給が75円の当時、現代の貨幣価値で言えば300万円ほどでしかありません。しかも周旋屋にピンハネされ実際には1100円しか残りませんでした。

 狡猾な雇い主のもとで、借金は一向に減らず、膨らむばかり。1晩に10人以上も客を取らされ、梅毒など花柳病にも罹患、入院しても退院したその日の夜から働かされる過酷な日々。

 身も心もボロボロになった状態で、光子は「もう泣くまい、悲しむまい。復讐の第一歩として、人知れず日記を書こう」と決意します。もともと本を読むことが好きだった光子は、白蓮の作品に触れ、その生き方に心酔し、やがて"白蓮なら苦界の遊女を哀れみ、救ってくれるに違いない"と一筋の光明を見出します。そしてついに一念発起し、病院に行くフリをして吉原を逃げ出し、一度も会ったことがない白蓮宅に駆け込んだのでした。

 本書の続編にあたる『春駒日記 吉原花魁の日々』の「廓を脱出して白蓮夫人に救わるるまで」によれば、駆け込まれた白蓮も、突然のことにびっくりでしたが、弁護士になっていた夫の龍介と、労働運動家の岩内善作の助力を得て、光子を自由廃業させて娼妓の世界から救う事に成功します。

 光子はその後、白蓮のもとで本書含め2冊を出版し、自由廃業の支援者だった男性と結婚したとは伝わっていますが、消息も没年も一切不明なのだとか。花魁が自ら筆を取り、吉原遊郭の実態を描いたノンフィクションである本書は、時代風俗を知る資料としても第一級の価値があります。『花子とアン』と同時代に生きた吉原遊女の立場を知る資料として、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

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