直木賞候補作『ミッドナイト・バス』は心がささくれだっている人におすすめ? 

ミッドナイト・バス
『ミッドナイト・バス』
伊吹 有喜
文藝春秋
1,944円(税込)
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 いよいよ明日7月17日、第151回直木三十五賞(2014年上半期)が決定します。前回は、6つの候補作の中から女流作家の2作が選ばれましたが、はたして今回は...? 

 候補作のひとつ、伊吹有喜さんの書いた『ミッドナイト・バス』は、家族の物語です。新潟のとある町に住む主人公・高宮利一は、東京での仕事をやめ、地元新潟で高速バスの運転手になった40代後半の男。恋人を地元に呼び寄せ、再婚することを考えていた矢先、東京で働いていた息子が家に戻ってきます。深い事情があるものの話してはくれない息子。高宮は息子がどこか遠いところへ行ってしまう(もしかすると死んでしまうかもしれない)という漠然とした不安を抱えるなか、16年前に別れた妻と自分が運転するバスで再会、元妻が幸せとはいえない結婚生活を送っていることを知ってしまいます。また高宮には、副業で成功を収めるものの、婚約相手との間に溝を感じている娘もいます。

 誰も悪くないのに、なぜかうまくいかない。本書を読んでいると、そんな世の中の理不尽を思い出す人も多いのではないでしょうか。

 不器用で口下手な主人公が、過去の後悔を繰り返さないために踏み出した一歩。その後の詳しい物語についてここでは触れませんが、幸せな結末が待っていることを誰もが望む作品と言っていいかもしれません。

 作者の伊吹さんは、出版社勤務、フリーライターを経て作家となり、デビュー7年目。これまでに、NHKでドラマ化された『四十九日のレシピ』など、全部で4つの作品を世に出してきました。以前、彼は自身のブログで、「この間に長編小説が四作というのは、寡作なほうかもしれません」と言いつつ、こんな言葉を残しています。

「でも作家として仕事を始めて以来、担当の編集者さんをはじめ、一緒にお仕事をする方々に恵まれ、じっくりと作品に取り組ませていただいたことは幸せなことです」

この謙虚で真摯な気持ちが作品にも投影され、読者の心にやさしい気持ちが生まれる......。それが彼女の作品の魅力かもしれません。未読の方は是非、読んでみてはいかがでしょうか。

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