政府の集団的自衛権行使容認、若き論客が見た日本政治の問題点とは?

こんな日本をつくりたい
『こんな日本をつくりたい』
石破茂,宇野常寛
太田出版
1,404円(税込)
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 同盟国が攻撃を受けたときに日本も武力行使を行うという集団的自衛権の問題。7月1日、政府は自民・公明の両党が了承したことで、憲法解釈を変更することを閣議決定しました。永田町の首相官邸前では集団的自衛権の行使容認に反対する市民団体などの呼びかけで、1万人(主催者発表)もの人々が抗議の集会やデモを行い、マスコミも「憲法9条が破壊された」「日本が戦争できる国に」などの批判を繰り広げています。

 しかし、そうした声にピンとこない人も多くいます。ナゼでしょう? 反対の声をあげない人は「戦争を望んでいる人」なのでしょうか?

 思い起こせば1986年。ときの中曽根内閣は防衛費の対GNP比1%枠を撤廃することを決定。そのときも今回と同様、「再び戦争のできる国へ」といった批判が噴出しましたが、1%を超えたのは1987〜89年度の3年間のみで現在は再び1%以下に収まっています。また、国連PKOやアジア・中東で起こった戦争後の海外派遣、そして2007年の防衛省設置など、国防の転換期に「日本が戦争できる国に」という言葉がリベラルの側から繰り返されてきました。

 しかし、幸いなことに日本は戦争をせず、今日へと至っています。

 もちろん、多くの国民が、今回の閣議決定について、一定の疑問を持ってはいるでしょう。自民党が集団的自衛権の行使容認を公約に掲げて先の選挙で大勝しているとはいえ、自民党支持層でさえ一点の曇りなく納得する話ではないはずです。ただ、官邸前で大きな声をあげる団体や人々、また一部マスコミの言葉に多くの国民がなかなか共感できていないのは、戦後、繰り返される「日本が戦争できる国に」との言葉に、誰しもが辟易しているからではないでしょうか。

 そこにあるのは、リベラルの失速。若手論客として多方面で活躍する評論家の宇野常寛さんも、6月12日付『朝日新聞』朝刊に、集団的自衛権に関して次のように寄稿しています。

「もちろん、安倍晋三首相の強引な解釈改憲は行き過ぎている。それは問題の本質ではありません。国民の多くが、強引な解釈改憲を行ってでも、緊迫するアジア情勢に具体的に対応すべきだと考えている現実がある」

「しかし安倍首相の語る具体論に対し、海江田代表は解釈改憲をめぐる手続き論や形式論を繰り返すばかり。これではほとんどリベラル勢力の逆宣伝です」

「リベラル側は『保守勢力は強権的で恐ろしい』という印象を強調すれば済むと思っている。だから通りいっぺんの形式論に終始してしまうのではないか。本日の討論ではそれが明確に表れたように思います」

 宇野さんは、自身としては「民主党に共感します」とする一方で、世論を捉え問題の本質を見出そうとしています。「賛成か、反対か」、また「戦争するのか、しないのか」の二元論で物事を捉え、いくら声をあげたところで、それは多くの人の心に響いてきません。それより、解釈を変更することで現実的にどんな事態が発生しうるのか、そうしたリアルな議論の積み重ねを「反対派」はしてきたのか----宇野さんはそう問いかけているのです。

 そうした姿勢は、今回紹介する石破茂さんとの共著『こんな日本をつくりたい』にも見受けられます。宇野さんと石破さんが、日本が抱える問題と向き合いながら、同時に夢も語っている同書。失われた20年を嘆くより、前向きなビジョンを語ることで日本の未来を切り開こうというふたりのお話は、多くの読み手を惹き付けるのではないでしょうか。

 そんな宇野常寛さん。新聞や雑誌での論評だけでなく、メルマガもしています。タイトルは『ほぼ日刊惑星開発委員会』。社会問題から宇野さんが得意とするサブカルチャーまで、気になるモノを幅広く取り上げているメルマガです。初月は無料ですので、若き論客の生の声を聞きたいという方は、登録してみてはいかがでしょうか。

【関連リンク】
ほぼ日刊惑星開発委員会
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