安野モヨコ『働きマン』の主人公が、いつも「納豆巻き」を食べていた理由

マンガの食卓
『マンガの食卓』
南 信長
エヌティティ出版
1,728円(税込)
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『オバケのQ太郎』に登場する小池さんのラーメンや、『おそ松くん』のおでん、『3月のライオン』のから揚げ、『銀の匙』のピザと豚丼......。食事シーンが名物となっているマンガは数多くあります。

「マンガのなかで印象に残る食事シーンはたくさんある」とは、朝日新聞コミック欄を執筆するマンガ解説者の南信長氏。自著『マンガの食卓』のなかで、気になるマンガの食事シーンを紹介しています。

週刊誌の女性編集者・松方弘子の奮闘を描いた安野モヨコさんの『働きマン』に出てくる「納豆巻き」も、そのうちの一つ。

作中の松方が、いつも激務の合間に食べているのは、コンビニで売られている納豆巻き。片手で食べることができるため、"ながら食事"が多い編集者にとっては都合の良い食べ物です。デスクに座りながら食べる時も、スポーツ選手とコーチのスキャンダルをとるために張り込みをしている時も、納豆巻きを食べていました。張り込み時に同行のカメラマン兼記者に「なぜ、いつも納豆巻きなのか」と尋ねられるものの、松方は「教えません!!」と返答を拒否します。

では、なぜ松方はいつも納豆巻きを食べるのでしょうか。南氏はこう分析しています。

「彼氏とも会えずセックスレス更新中で女として枯れ気味の自分に、少しでも女性ホルモンを補給するために納豆巻きを食べていたわけだ。納豆巻きという色気のないアイテムと、せめてもの色気を保持したい女心の対照が、残念なような可愛いような、ビミョーな彼女のキャラを印象づける。ここで納豆巻きというセレクトは、さすが安野モヨコという感じ」

本作のほかの登場人物も、食べ物とともに描かれています。例えば、新人女子の渚マユはアンパン、グルメ・エロ担当のこぶちゃんはラーメン、販売部の千葉はミートスパゲティと、食べ物とともに登場します。安野さん自身も食べ物エッセイを出していることもあり、「やはり本人にも『食は基本』という認識があるのだろう」と、南氏は分析しています。

ラーメン大好き小池さんのラーメンから、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のカップ焼きそばから、『グラゼニ』の唐揚げチャーハンまでを紹介する本作。作中の食事シーンを通じて、あだち充作品と高橋留美子作品の違いを分析するなど、読み応えたっぷりな内容となっています。

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