マティス、ピカソ、ゴッホら美術界の巨匠を側で支えた女性の視点とは
- 『ジヴェルニーの食卓』
- 原田 マハ
- 集英社
- 1,512円(税込)
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素人にはわかりにくい「美術の世界」を描ききった、原田マハさんのアートサスペンス作品『楽園のカンヴァス』。同作品は、山本周五郎賞を受賞し、直木賞にもノミネートされました。自身もMoMAに勤務していたという経験もあり、なかなか知ることのできない美術の世界を、わかりやすく表現しています。
そんな原田さんの新作『ジヴェルニーの食卓』は、マティス、ピカソ、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、モネといった美術界の巨匠の人生を、側で支えた女性の視点で描いた四篇を収録したもの。
「美のひらめき」「ひと目惚れ」を求めていたマティス。画家の視線というものは独特なものでした。
床に放置されている色紙、テーブルに置いてある花瓶、それに活けられて重たげに頭を下げるあじさい、マントルピースの上に無造作に転がっているオレンジ、開きかけの本、エビアンの小瓶、水の半分入ったグラス、封筒とレターオープナー、これらのささやかなものにも、全て特定の位置が決まっているのです。ですから、他人が掃除をする時は一苦労。
マティスのお世話をすることになった家政婦のマリアは、秘書・助手からこう教わりました。
「こうして腰を屈めて、先生の車椅子の高さから見ると、水差しの取っ手の位置にテラスの手すりが重なって見えていたはずよ。いいこと? 掃除をするまえに、あらゆるものを車椅子の位置から注意深く見てごらんなさい。そして、どういう理由でそれがそこにあるのか考えて、記憶しなさい」
確かに、本は、真ん中よりも少し後ろのページが開けられており、読書する人の熱中ぶりが伝わってきますし、グラスの水は、小瓶の「evian」の文字にかかるくらいの高さで静まっています。ただ、そこにあるようにも見えますが、マティスのなかでは、物語になっていなければなりません。アトリエにもなっている部屋には、何一つ偶然の産物などはないのです。すべてが、そこにある意味を持っているのです。
この、マティスの生き方や、ピカソとの不思議な関係を描いた『うつくしい墓』は、原田さんにとっては、初めてアートをテーマに小説を描いた挑戦作。他にも、巨匠たちはどのようなこだわりや生き方をしていたのでしょう。
原田さんだからこそ描ける美術の世界。今回も、多くの人を美術の世界に誘ってくれるでしょう。