名監督は奇人か?「度を越した」常人か?
- 『ビエルサの狂気―知られざる戦術マニアの素顔』
- ジョン リバス
- ベースボールマガジン社
- 1,512円(税込)
- >> Amazon.co.jp
- >> HonyaClub.com
- >> エルパカBOOKS
プロサッカーの世界では、選手に比べて監督の方が給与が少ないものです。勝ったら選手のおかげ、負けたら監督の責任となるわけですから、監督というポジションは簡単ではありません。そういった環境のせいか、変わり者と呼ばれる名監督も少なくないのです。
元フランス代表の監督ドメネクは「占星術」で選手選考をしていると発言したり、マラドーナ監督は、タコのパウルが死んだ際に「この予言タコ野郎、おれはお前が死んでうれしいよ。W杯で負けたのはお前のせいだ!」とツイートしたり、なかなか癖のある人物が多い。また、漫画『GIANT KILLING』の主役・達海監督も、掴みどころのない監督とされています。
そのなかでも群を抜いて"変わり者"として認められている監督がいます。現在、スペインリーグのアスレティック・ビルバオの監督として指揮をとるマルセロ・ビエルサ監督です。戦術マニアと知られるビエルサ監督は、「エル・ロコ」(変人の意)との異名を持っています。
しかし、書籍『ビエルサの狂気 知られざる戦術マニアの素顔』のなかでは、違った見方でビエルサ監督を分析しています。ビエルサ監督がロコと言われるのは、彼の思考が他の人間とは違うところをいくからだといい、それは試合中の彼の振る舞いや要求の高いトレーニングを観察していればわかるといいます。その一例がこちら。
「例えばトレーニングで220本のクロスを上げる。そこで選手はボールと交わるポイントをめがけて走り込む。セットプレーで点が生まれるのはそれしかない。ヘディングが上手いか下手かは重要ではないのだ。確率的にいえば、220本のうち実際に得点になるのは5本かもしれない。ただ、私が選手たちに言うのはその220本全てに飛び込めということだ。それがその5本となる可能性を信じなければならない。これが集中力というものだ。全てにおいてこれが唯一のチャンスだとどれだけ意識できるかで、それがゴールになる確率は変わってくる。1回のチャンスは1ゴールのチャンスであり、1ゴールは自分たちの人生を変えてしまう。だから私はその220本のクロスに対して、たとえ1本でも飛び込まない選手がいたら容赦はしない」(本文より)
いかがでしょうか。確かに次元の違う視点からサッカーをみており、その表現も独特。ヘディングの上手い・下手を度外視し、的確なポジションに飛び込めるかどうかを重視しています。実際、ヘディングのトレーニングはさほど難しいものではありません。本当に難しいのは、正しいタイミングで正しい距離を駆け上がり、正しいポジションをとること。
着眼点が人と違うかもしれませんが、どこか納得できてしまいます。ビエルサ監督は、本当に奇人といえるのでしょうか。あなたはどう思いますか?