被災地への義援金はいくら送れば良い? 現代日本の「お金」信仰を問う第49回文藝賞受賞作『おしかくさま』

おしかくさま
『おしかくさま』
谷川 直子
河出書房新社
1,296円(税込)
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 第49回文藝賞受賞作『おしかくさま』が刊行されました。同書はエッセイスト・谷川直子氏の小説作品。テーマは「お金の神様」です。

 主人公の49歳・ミナミは、ウツ病持ちのライター。ある日、母からこずかいをもらい、父を尾行することに。父が駅の近くに住んでいる一人暮らしの女性の家から出てくる姿を見かけた人がいる、という情報が母の耳に入ったためです。しかし、父が出入りしていた家では、父は「先生」と呼ばれていたことが発覚。家の中には、「おしかくさま」というお金の神様を信じる4人の高齢女性(60~70歳)がおり、ミナミの父のことを「おしかくさま」の遣いだと信じているのです。「おしかくさま」のお告げ通りにミナミの父がヒーローみたいに登場し、ひったくりを捕まえたことがすべての始まりでした。当初はこの「おしかくさま」を警戒していた、ミナミでしたが、次第にその存在が気になるように。4人の女性らと共に、「おしかくさま」のお告げに従うようになるのです......。

 東日本大震災も執筆のきっかけになったと谷川氏が話すとおり、「被災地への義援金はいくら送れば良いのか」など、作品中にも震災の話題が出てきます。「3.11」以降の私たちの価値観とお金。バランスを崩しかけているナイーブな話題にも切り込んでいます。しかし、全体的にはカジュアルな小説といった印象。語り手が、ミナミをはじめ、父、母、妹、姪と変わるので、誰に共感できるかもポイントです。現代日本の「お金」信仰を問う、痛快小説なのです。

 谷川氏の元旦那、作家・高橋源一郎氏は、同書の帯で「文句なく『面白い』小説だった。ぼくは、候補作であることを忘れて読みふけった」と言葉を残しています。2012年、笑って「読みおさめ」したいという人にぴったりな一冊と言えるでしょう。

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