本を読めば2ドルもらえる? 奇抜なお金稼ぎの方法

それをお金で買いますか――市場主義の限界
『それをお金で買いますか――市場主義の限界』
マイケル・サンデル,Michael J. Sandel
早川書房
2,263円(税込)
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 YESかNOか、はっきりと言いにくいテーマについて、受講者に考えるきっかけを与えるハーバード大学でのサンデル氏の講義。同氏の書籍『これからの「正義」の話をしよう』は、日本でも大ヒットしました。そんなサンデル氏の最新刊は、『それをお金で買いますか』です。

 現代を生きる私たちは、あらゆるものがカネで取引される時代に生きているといえます。「え、こんなものも売買されているの?」と思わず口にしてしまいそうなものも売買されているのです。もはや、買えないものを探すことの方が難しいくらいです。一例を見てみましょう。

■絶滅の危機に瀕したクロサイを撃つ権利(15万ドル)

 南アフリカでは、一定数のサイを殺す権利をハンターに販売することが、牧場主に認められるようになっています。これは、絶滅危惧種であるサイを育てて守るインセンティブを牧場主に与えるため。

■主治医の携帯電話の番号(年に1500ドルから)
 1500~2500ドルの年会費を払う患者に対し、携帯電話の番号を教えて当日予約をとれるようにする「コンシェルジュ」ドクターがますます増えています。

■子供を名門大学に入学させる(?)
 価格は詳しく明示されていませんが、一流大学の当局者が『ウォールストリート・ジャーナル』紙に語ったところによると、きわめて優秀とまでは言えない生徒でも、親が金持ちで相当な寄付をしてくれそうなら、入学を許可する場合があるといいます。

 こういったものは、誰もが簡単に買えることはできません。ある程度、裕福である必要があります。しかし、お金を稼ぐ術も多岐に渡っています。奇抜な方法でお金を稼ぐことができます。

■額(もしくは体の一部)を広告用に貸し出す(777ドル)

 ある航空会社では、30人の人を雇って、頭髪を剃らせ、消える入れ墨で「変化が必要? それならニュージーランドへ行こう」とスローガンを入れさせました。

■民間軍事会社の一員としてソマリアやアフガニスタンで戦う(1月に250~1000ドル)

 能力、経験、国籍に応じて、報酬には多寡があります。

■ダラスの成績不振校の二年生なら本を一冊読めばいい(2ドル)

 読書を奨励するために、ダラスの成績不振校では、子供たちが本を読むたびにお金を払っている。

■病人や高齢者の生命保険を買って、彼らが生きている間は年間保険料を払い、死んだときに死亡給付金を受け取る(保険内容によるが数百ドル)
 赤の他人の命を対象とした賭博は、300億ドル産業になっています。赤の他人の死が早ければ早いほど、投資家の儲けは多くなります。

 以上のように、あらゆるものをお金で買えますし、あらゆるものをお金に変えることができます。そこには買い手と売り手のメリットが合致しているので、問題はないはずですが、どこか納得しにくいものがあります。

 最近の売買の理論は、物的財貨だけではなく、生活全体を支配するようになっています。このような生き方で本当に良いのか、とサンデル氏は同書で問いかけています。

 すべてのものが売り物となった社会についてサンデル氏は、こう心配しています。

 「すべてが売り物となる社会では、貧しい人たちのほうが生きていくのが大変だ。お金で買えるものが増えれば増えるほど、裕福であることが重要になる。(中略)政治的影響力、すぐれた医療、犯罪多発地域ではなく安全な地域に住む機会、問題だらけの学校ではなく一流校への入学など──がお金で買えるようになるにつれ、収入や富の分配の問題はいやがうえにも大きくなる。価値あるものがすべて売買の対象になるとすれば、お金を持っていることが世界におけるあらゆる違いを生みだすことになるのだ」

 また、ここ数年、貧困家庭や中流家庭の生活が厳しかった理由がここにあるといいます。貧富の差が拡大したのではなく、すべてのものが商品化されたことで、お金の重要性が増し、不平等が明確になっただけなのです。

 このまま私たちはすべてを商品化し続けていて良いのでしょうか。目の前の利益に飛び込んだ後のしっぺ返しを想像できる力が、必要とされているのではないでしょうか。

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