インターネットによって広告の芸は荒れた? 本当のことが書けない制作者
- 『いつだって僕たちは途上にいる (人生2割がちょうどいい)』
- 岡 康道,小田嶋 隆
- 講談社
- 1,512円(税込)
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故金正日と李明博、また、バラク・オバマと胡錦濤、そして、ニコラ・サルコジとアンゲラ・メルケルなど、世界のトップ同士がキスをしている写真を使ったビジュアルで、国際的な話題となったユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトンの広告が、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルのプレスグランプリを受賞しました。
日本のテレビ番組では、世界のオモシロCMを紹介するコーナーがあるなど、広告クリエイティブに関心がある人が少なくありません。しかし、広告を作る現場の意見は少し違うようです。
「インターネットによって広告の芸は荒れた」、こう話すのは、クリエイティブ・ディレクターとして、TCC最高賞やACCグランプリ賞など、数々の賞を受賞してきたTUGBOATの岡康道氏です。コラムニストの小田嶋隆氏との語らいで構成されている書籍『いつだって僕たちは途上にいる』のなかで、インターネットと広告について触れています。
岡氏などが、新しく広告キャンペーンをはじめると、すぐに批判的なメールが届くそうです。同業者からなのか、消費者からなのかがわからないメール。こういったメールは、制作者やクライアントを深く傷つけますし、それが重なるとCM放送などを取りやめることもあります。いくら3000人が面白いといっても、5人ぐらいが「許さない」と言うだけで、つぶれてしまう企画があるのです。
「例えばテレビCFでバックに流れる歌の歌詞を作るでしょう。そこに『生きることは汚れていくこと』といった、本当のことを書くとする。そういう言葉がCMとしてはちょっと挑戦的だ、ということはもちろん分かってやっているんだけども、だからせめて、きれいな気持ちだけは持っていたいね、ということを逆に浮かび上がらせることなんだけど。でもそれがダメだ、と言う」(岡氏)
なぜ、ダメなのでしょう。そこには、「汚れていることは分かっている、と。分かっていることを、いちいち公の場で言う必要があるのか」といった論法があるようです。そういったツッコミが趣味になっていたり、新しい広告表現や、珍しいものを許さないという人は、意外と少なくありません。
また、インターネット上で共有されてしまうと、どんどんネガティブな意見が拡大していきます。ウエブ上で苦情を言うのはノーリスク。広告とインターネットの相性は、「本音が聞ける」「隠れた欲求が見える」といった良い面だけではないようです。
冒頭のキス広告は、インパクトが強かった分、当たりが強かったことが予想されます。制作者・クライアントは、「この表現方法は良いものだ」と信じ抜く持久力も試されたのはないでしょうか。だからこそ、グランプリに値する広告といえるのでしょう。