村上春樹、太田光らが愛するジョン・アーヴィング 待望の最新作を発表
- 『あの川のほとりで〈上〉』
- ジョン アーヴィング
- 新潮社
- 2,484円(税込)
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現代アメリカ文学を代表する作家ジョン・アーヴィング氏の最新長編です。氏は、自身のベストセラー小説である『ガープの世界』や『サイダーハウス・ルール』が映画化され、高い評価を得たこともあり、長年のファンが日本にも少なくありません。また、デビュー作である『熊を放つ』は村上春樹が翻訳したことでも知られています。
小説家としての一面を見せる爆笑問題の太田光も、彼のファンを公言する一人。現代の日本文学にも大きな影響を与えてきた作家だといえるでしょう。
12作品目となる最新作は、半世紀にわたる父と息子の物語。「死からの逃亡」が主題です。
冒頭で主人公のダニエル少年が、ベッドの上で父親にのしかかる父親の愛人を、熊と勘違いし、フライパンで殴り殺してしまいます。親子は、復讐に狂う暴力保安官から逃げるため、住み慣れた森を飛び出し、都会へと出ていきます。故郷を捨て、職場を捨て、名前を捨て、時には愛人を置いて逃げるのも、愛する息子(または父親)を死から逃すためです。
途中テレビに映し出されるベトナム戦争や、9・11同時多発テロなどの記述もあります。死をめぐる小説ではあるのですが、うつうつとした暗い小説では決してありません。逆に死と対比するように、生きる喜びが際立ちます。コックである父親が作る垂涎の料理レシピや親子の華麗な女性遍歴、親子と人々との交流など、日常がユニークに描かれます。
半世紀にわたる親子の逃亡生活は、死に追いつかれることによって終わるのですが、そのころには、少年だったダニエルは60代になり、ベストセラー作家となっています。ダニエルは愛する父親の死後、言葉があふれだし、その思いのままに小説を書きはじめます。そして、読者はその小説こそが、いま手にしている本であることがわかるという仕掛けです。
ジョン・アーヴィングは、この物語を書くまで20年近くも構想を胸に温めてきたといいます。また、自伝的要素も各所にちりばめられ、彼の世界観が詰まった1冊だといえるでしょう。