芥川賞受賞者・田中慎弥氏の都知事への噛み付きは、メディアが作ったストーリーだった?
- 『共喰い』
- 田中 慎弥
- 集英社
- 1,080円(税込)
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「私がもらって当然」「とっとと終わらせましょうよ」のコメントで一躍有名人となった芥川賞受賞作家の田中慎弥氏。石原都知事の「今度の芥川賞候補作はバカみたい」発言にも噛み付き、歯に衣着せぬ物言いが、見るものに大きなインパクトを与えました。
しかし、これらの発言に対して、1月26日に毎日新聞に寄稿を行い、事実と違った報道が行われていると発信。再び注目の的となりました。そこでは、「都知事と都民のためにもらっといてやる」という発言は前もって考えていたことであり、都知事の「バカみたい」発言については知らなかったとされています。つまり、都知事に田中氏が噛みついたというのは、メディアが勝手に作った絵だというのです。
「それにしても、あんな騒ぎになるとは思いもしなかった。会見で石原氏のことを言えばその場が一気に盛り上がり、和むだろうと考えていただけだ。会見を御覧になった方はお分かりだろうが、私はテレビ映えしない。だから言葉の上で何か面白いことを言って切り抜けないことにはどうしようもない。だからああいうことを言っただけ。それがメディアの作ったストーリーによって思わぬ大きさに膨らんでしまった。」(田中氏)
こういった人間味のある田中氏のコメントに好感を持つ人も多いようです。作品だけでなく作者にも注目が注がれているなか、27日に受賞作品『共喰い』が発売されました。
父の乱暴な性癖を知る17歳の遠馬。父と愛人の3人暮らしで、その近くには産みの母親が生活をおくるという歪んだ生活環境で育ちました。そんな父の癖に対し、殺意に近い嫌悪感を抱きながら、自分もまた同じ血が流れていることを知っていた遠馬。同じ学校に通う会田千種と性交にのめり込むある日、父と同じように暴力行為を試そうとし、喧嘩になってしまいます。ほどなく、愛人は遠馬の家から抜け出すことを決意。お腹に子供を宿したまま家を出たのです。それに気づいた父は躍起になって愛人を探しはじめます。興奮状態の父が見つけたのは、遠馬と仲直りしようと社で待つ千種でした。そこで父がとった行動とは......。
審査を担当した黒井千次さんは、「ドロドロした粘度の高い世界を、鮮やかに、執拗に書くことができるのは普通の才能ではない。人の生活の描き方が非常にダイナミック。やむを得ず出てきてしまった、という力があった」と同作を称賛しました。
早々に受賞を決めたという『共喰い』の世界観に浸り、その後に田中氏の発言を振り返ってみると、「泥臭く強い生き様」を感じることができるのではないでしょうか。はやくも3刷計10万部と数字を伸ばしている同作は、名実ともに今もっとも旬な作品といえます。