まともな試合が凡評価に陥りやすい、色物興行的オムニバスホラー『世にも怪奇な物語』
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微妙なエピソードが含まれていても、突き抜けて強力なエピソードが1本あれば相対的に評価が上がる(可能性がある)プラシーボなオムニバス形式。推理・恐怖小説の大家エドガー・アラン・ポーの小説3作品を映像化した『世にも怪奇な物語』(1967)もその一例で、特に最後の3話目が本作の(カルトな)評価を牽引しているといわれます。
1話目の「黒馬の哭く館」は、ジェーン・フォンダ演じるビッチなお嬢様が、イケメン従兄弟を我が物にしようとするも失敗。腹いせに(使用人に命じて)従兄弟の馬小屋に放火したら、従兄弟が馬と共にまさかの焼死......しかし、それと同時に謎の黒い馬が現れ......という呪い系のお話。
2話目「影を殺した男」は、美男子アラン・ドロンが一人二役の主演。邪悪な青年が自分とそっくりな同姓同名の人物を殺してしまう筋書き。ドロン様が当時のセクシー女優ブリジッド・バルドーにムチ打ちするという刺激的なシーンが有名だとか。
そして件の3話目。「悪魔の首飾り」は、アル中のイギリス俳優(テレンス・スタンプ)が、慣れないイタリアでの撮影や取材のプレッシャーで酒量が増え、最終的にフェラーリで暴走死するというトンデモエピソード。
何がトンデモって、前衛芸術的なセットや全編アドリブかとも思えるガチャガチャした演出など、フェデリコ・フェリーニ監督のキテレツ振りが色濃く出た作風。「間のとり方を忘れた落ち着きのないデヴィッド・リンチ」といった味わいのそのインパクトは2014年の今日でも類を見ないレベルです。
さて、プロレスも基本的には試合毎に独立したストーリー展開を持つ"オムニバス"モノといえます(連続ドラマとしてみるとその限りではない)。そこに来て1話目にセクシー女優として人気だったJ・フォンダを持って来る構成は、WWE番組でいう、トップスター対決や注目の展開の続きとなるスピーチといった番組冒頭の"掴み"に相当するでしょう。
ただまあ1話目の監督は以前ネタにした『バーバレラ』の監督と同一人物であり、要は当時の妻であるフォンダ女史の美貌を、夫自らが自慢気に披露する「公私混同PV」なんだけども!
ヒールのドロンがベビーフェイスのドロンに翻弄される2話目は、怪奇派&マスクマンの定番ネタといえる「本物vs.偽物」抗争的。実は本作で唯一まともなエピソード故、まさにミッドカード(中堅カード)といえます。
メインイベントたる3話目の矢継ぎ早に変わる謎映像は、WWEでいうと誰にでも分かり易い王道的な1軍の試合スタイルではなく、エイドリアン・ネヴィルやサミ・ゼインなど、インディ界隈で育った選手が集う2軍「NXT」のハイパーアクティブな試合スタイルが浮かびます。実験的ギミックも許容される自由な空気感も同様でしょうか。
とまあ、公私混同の嫁推しPVな1話目と、トンデモホラーな3話目という色物感溢れる構成のため、ポー作品っぽさが一番出ている2話目が凡庸な評価に陥る本作。まともな試合が見過ごされる色物(選手主体の)プロレス興行にも似た哀愁を感じてしまったのでした。
(文/シングウヤスアキ)