連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第22回 『バンビ、ゴジラに会う』

Bambi Meets Godzilla [VHS]
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 北米で一足先に公開された『GODZILLA ゴジラ』が好調な興業成績を記録しているということで、7月の日本公開が待ち遠しい。前回のエメリッヒ版ゴジラがマニアには概ね不評だっただけに、否が応でも期待が高まる。そこで今回は、ゴジラ関連の作品を紹介したい......といってもこのコーナー、そんじょそこらの作品をやるわけがない。かつて世界中のゴジラファンが衝撃を受けた伝説の作品を紹介しよう。

 今から30数年前の私がまだ大学生の頃、怪獣趣味仲間から「『バンビ対ゴジラ』って知ってる?」と問われた。「何それ? そんなのあるわけないでしょ」って感じで軽く流していたのだが、それから数年後、『風雲ライオン丸』やら『吸血鬼ゴケミドロ』やら『必殺からくり人』やら(以下省略)、メンバーが持ち寄ったマイナー作品中心の部屋飲みビデオ鑑賞会で、ふと誰かが持ってきた洋物のビデオを観ることになった。それが例の『バンビ対ゴジラ』だった。「ガシャン(ビデオデッキの蓋が閉じる音)! ウィイイ~ン(読み込む、のではなくテープ再生までの発動音)」を聞きながら、固唾を呑んでテレビ画面に集中するメンバー達。

 ホルンが奏でる牧歌的な音楽(オペラ『ウイリアム・テル』)が流れる中、草原に1匹の仔鹿がいる。白い背景に黒い線画のアニメーションだ。『Bambi meets GODZILLA』とタイトルが入る。バンビがノンビリと草花の匂いを嗅いでいるシーンを流しながら、「原作 マーヴ・ニューランド」(表記は英語)とクレジットが入る。バンビは足をポリポリするなど、相変わらず可愛い。続いて「脚本 マーヴ・ニューランド」、「製作 マーヴ・ニューランド」......と次々にクレジットが流れていく。要はマーヴ・ニューランドの個人製作ということだ。

 やがてスタートしてから50秒ほど経過した頃、ふとバンビが前方を見上げる。と、間髪入れず「ズ~ン」という大音響とともに上からゴジラの足がバンビを踏み潰す! 「ズ~ン」の「~ン」という重低音の余韻の中、ゴジラの足裏から四肢を出してペシャンコになっているバンビ。これが静止画としてしばらく流れ、いつゴジラが足を上げ、潰れたバンビが姿を見せるのか、憐憫と嗜虐が心の中で戦うこと約40秒、垂れていたゴジラの3本爪が前方にピンと一瞬伸びて、また垂れる(いったい何の演出意図が?)。そのまま画面は暗転して、はい終わり(笑)。

 権利関係がどうなっているのかは知らないが(苦笑)、カナダのアニメーター、マーヴ・ニューランドによるこのショートムービーはその後、俗称『バンビ、ゴジラに会う』(どちらかというと『バンビ、ゴジラに遭う(遭遇)』だな)として、日本でもマニアの間で語り継がれてきた。上から足が降ってくるのは『空飛ぶモンティ・パイソン』のオープニングに酷似し(パクリではなく偶然らしい)、ラストの「ズ~ン」はビートルズ『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』の曲終了間際のコードだという有識者による指摘もある。

 実は本作品は、世界各国からエントリーされたアニメ作品について、臨床心理学的に検討する「第14回 国際アニメーションフェスティバル」(12年、広島)で劇場公開されている。そこで某心理学者は「当時のベトナム戦争に揺れるアメリカ合衆国の象徴でもあるディズニー作品のキャラクターを国家体制に見立て、核の犠牲者である日本の怪獣王が踏みつぶす。そこに笑いが生じる」と分析した。一方、審査員も務めていたニューランドは「観ればわかる」と、内容について踏み込んだ解説は一切しなかったという。深読み? それとも単なる一発芸? それは観る者に委ねるという姿勢の作者なのであった。

 ちなみに、99年に『SON OF BAMBI MEETS GODZILLA』、つまり『バンビの息子、ゴジラに会う』なるCGアニメが別の作家により製作されている。こちらはエメリッヒのイグアナゴジラが登場し、バンビに負ける(笑)。エメゴジへの痛烈な批判といったところだろうが、はたして新作ゴジラやいかに?

※『Bambi meets GODZILLA』は、YouTubeでも観られます。

『バンビ、ゴジラに会う』
1969年/カナダ/1分30秒
監督・脚本:マーヴ・ニューランド

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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