「ワードローブの1つとして着物を楽しんで」マドモアゼル・ユリアさんの着物の世界

男物の反物で仕立てた結城紬(ゆうきつむぎ)。独特の格子(こうし)柄が印象的な吉野間道(よしのかんとう)の帯を合わせてカジュアルに。撮影:松川真介
着物を洋服と同じようにワードローブの1つとして、楽しんでいるDJ・着物スタイリストのマドモアゼル・ユリアさん。「着物や帯、小物などに、自分の思いを込められる。それが、洋服にはない着物のおもしろさだと思います」というユリアさんの着物の世界をのぞいてみましょう。

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着物と帯だけでは、着物スタイルは完成しません。半えり、帯揚(おびあ)げ、帯締(おびじ)め、バッグ、草履などの小物を組み合わせて、ようやく仕上がります。手間がかかりますが、だからこそ、ファッションを突き詰めた方は、着物にも関心を持つのではと思っているのです。
ただ、現在では、着物のよさを知る機会は、なかなかないですよね。まわりに着ている人もいないし、目に触れるチャンスもない。やはり、着物に触れることが重要だなと思って、昨年から母と少人数制の着付け教室をはじめました。
着付け教室では、基本的な着物の着方を教えるのが目的ですが、いろいろな着物に触れてほしいので、お稽古のときはご自身の着物ではなく、私がスタイリングした一式を身につけてもらうことにしています。その季節に合わせて、生徒さん1人ひとりを思い浮かべて、その方に似合うコーディネートを考えます。大変ですけれど、みなさんとても喜んでくださるので、やりがいがあります。生徒さんにはファッションの世界で働いている方もいらして、ふだんは最先端の洋服を扱っている方がとても興味を持ってくださる。やはり、日本の着物の力は偉大だと思います。
私の家の玄関には、コーディネートしやすいように、棚にいろいろな靴が並んでいます。その中の一段には、草履(ぞうり)がずらり。これを見たファッション関係の方が、「靴と草履が一緒に並んでいておもしろいね。でも、違和感はない」と言っていたのですが、私のワードローブはまさに、着物と洋服が一緒。同じ扱いです。

みなさん、「きょうは何を着ようかな」と、毎日、洋服を選ぶと思います。会う人、行く場所、天候、あるいはその日の気分などから、着るものを決めますよね。そのとき、「きょうは着物にしよう」と、着物もワードローブの中の1つになったら素敵。おしゃれの楽しみが増えます。
着物をこんなに好きになったのは、やはり祖母や母の影響が大きいかもしれません。祖母は石川県で美容室を経営しています。婚礼の着付けもしているので、美容室には花嫁さんのかつらや髪飾りなどもたくさんありました。そんな祖母に育てられた母は、最初は洋服のスタイリストをしていましたが、私が高校生のころに本格的に着物の勉強をはじめ、今は着付師として仕事をしています。
こういう環境で育ったのですが、着物が好きになったのは20歳を過ぎてからです。仕事で海外に行くことが増え、外国の人たちがいかに自国の文化に愛着を持っているかを目(ま)の当たりにし、自分も勉強し直そうと決意。そこで、念願の京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)に入学し、明治時代の日本文化を学びました。
これをきっかけに、ますます着物への興味が深まり、「着物は日本の季節や色彩、自然、文学、歴史などに深く関わっている。ただの衣服じゃない」と実感したのです。
20代半ばくらいからアンティーク着物や帯留め、髪飾りなどを集めはじめました。アンティークに惹かれたのは、現代にはない色柄や染織技法に触れられる、ということもありますが、やはり最大の魅力は、着物や帯1つひとつに物語があるからです。
例えば、着物の模様には、どれも意味があります。縁起のいいモチーフを集めた宝尽くしからは、幸せを祝う気持ちを感じることができ、麻の葉模様には子どもの健やかな成長への願いが詰まっています。「おめでとう」と言葉で伝えるのではなく、着物や帯の模様で伝える。昔の人は模様の意味がわかっていて、さりげなく着るもので心を表現していたわけです。日本人ならではの美意識ですし、描かれたモチーフなどから、何か特別なイベントのために仕立てた着物なのでは? なんて、想像したりするのが楽しいです。
私の好きなファッションの世界は、何シーズンか先を見て、その年の流行をつくり出すわけですが、最近は「どれも似ているなぁ」と、実は思っているところ。その点、着物には変わらない価値観があります。デザインは少しずつ変わっているのかもしれませんが、昔から使われている伝統柄は今も見事に生きている。ずっと大事にしてきたい、日本の宝物です。
■『NHK趣味どきっ!自分流にはじめよう!日々、キモノ暮らし』より

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