秋バラは、1年間バラを管理してきたことへの「最後のご褒美」

横浜イングリッシュガーデンに咲く秋バラのひとつ、アルパイン・サンセット。著書『バラ講座』(NHK出版刊)の表紙を飾ったバラで、春は華やかかつ重厚に、秋はちょっと軽やかに咲く。暑さに弱くやや育てにくい。試練を乗り越えて咲いた秋の花に思わず「お疲れさま」とひと声かけたくなる。撮影:桜野良充
11月は秋バラの美しい季節です。華々しくにぎやかな春の花に比べ、厳しい夏を乗り越えて咲く秋の花は、花色、花形とも深みを増した印象です。横浜イングリッシュガーデンの植栽や管理を手がける園芸家の河合伸志(かわい・たかし)さんに、秋バラの魅力を伺いました。

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■バラはガーデンの絶対的エース

困ったことに私はほとんどの花が好きで、「だったら手のかかるバラはやめよう」と毎回思うのですが、その決意は簡単にくずれ去ります。
「なぜだろうか?」。その理由を考えると3つありました。1つ目は、「主役を張れる花」であることです。庭づくりが好きな私にとって、バラはまさに安心感をもってまかせられる、絶対的なエースなのです。適切な管理をすれば、多くの品種は年に何度も花を咲かせるという利点もあります。
2つ目は「多様性」です。バラは一般に華美な印象ですが、なかには地味な色の花から、野趣に富んだものまでじつにさまざまです。その場面に適合できる花が、必ず見つかるのです。
そして最後に「香り」。世の中にはさまざまな香りの植物がありますが、バラの香りほど質と強さに優れ、多様性があるものはほかにはありません。

■心に響いたレジェンドの言葉

そんなバラの季節が再びやってきました。いわゆる「秋バラ」です。
地球温暖化のせいか、美しい秋バラが平地で咲くのは、ここ数年10月下旬以降になってきています。なかでも11月の秋バラは色がいっそう冴えて、上手に管理された株では、花も大きくふっくらとした印象になり、春の花とは違った趣を見せます。
私はこのころの花を一番の楽しみにしています。私にとっての秋バラは、1年間バラを管理してきたことへの「最後のご褒美」です。このご褒美はわずかな場合もあれば、「もういいよ」といいたくなるほど咲くこともありますが、これはすべて管理の差です。
「秋は人が咲かす」というほど、秋バラは梅雨や猛暑、台風、秋雨など数々の困難を乗り越えて、初めて到達できるもの、すなわち努力の結晶なのです。
「ダメなガーデナーはすぐ台風のせいにする。できるガーデナーは台風がきてもそれなりに咲かせる」。バラ界のレジェンド鈴木満男さん(※)にいわれた言葉は、私の心の中に常に響いています。
※京成バラ園芸で約40年にわたり、バラ生産者への技術指導、バラ園の管理などを担当したバラ栽培研究家。

■国内で最高ランクの秋バラが観賞できる

さて、私が手がけてきた横浜イングリッシュガーデンには、約2000品種ほどの古今東西の名花が植えられています。なかでも国産品種が多いのは、ガーデンの特徴の一つです。
管理水準の高さは国内屈指のレベルで、最高ランクの秋バラが楽しめます。栽培技術の高さとコレクションの希少性、独自性のある植栽デザインなどが高く評価され、2018年に世界バラ会連合選出の優秀庭園賞を受賞しました。
■『NHK趣味の園芸』2021年11月号より

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