悩みから生まれる新鮮なアイデア 上田淳子さんに聞く「新鮮な気持ちで料理する」

なすの丸ごとフライは表面はサクッ、中はトロッと柔らか。つくり方はテキストに掲載しています。撮影:吉田篤史
コロナ禍により、料理をする機会も頻度も増えましたよね。家にいる時間が増えて、いつもより丁寧につくったり、凝ったレシピにも挑戦したり。初めて料理の楽しさに目覚めた人もいることでしょう。最初の緊急事態宣言から約1年半――。料理へのパッションは持続できているでしょうか? メニューがワンパターン化して飽きてはいませんか? マンネリから抜け出して、モチベーションを上げたい。新鮮な気持ちで料理をつくりたい、食べたい。
常に”新鮮スイッチ”を発動して料理に真摯(しんし)に向き合い、既刊書にない斬新な切り口で著書を出し続ける料理研究家の上田淳子(うえだ・じゅんこ)さん。その情熱とアイデアはどこで培われてきたのか、お話を伺いました。

* * *

――上田さんの料理人生で、”新鮮スイッチ”の創成期を教えてください。
上田 私の”新鮮スイッチ”の原点は、双子の息子の子育て時代。「私、フランス料理はできるんです、でも離乳食はできないんです」。そこからですね(笑)。「子どもって、いったい何を食べるんだろう、何を食べちゃいけないんだろう?」って、わからないことだらけで。
でもそれをつらいと思っていたらやってられないので、「オモロイ!」と思うように切り替えたの。人生って、大変なことを「オモロイ」にひっくり返していかないと、生きていくのが大変なことって多いじゃないですか。ましてや双子(笑)。「あーこれ食べるんだ、これ好きなんだ、これ嫌いなんだ、これ食べられるようになったか。へーっ、ほーっ」と受け止めて生活していたら、いろいろと見えてきたんでしょうね。
――例えば、どんなことがありますか?
上田 テキストでご紹介している「なすの丸ごとフライ」は、なすが大嫌いな息子のおかげで生まれたレシピ。油でてかった皮が、虫の羽根を連想して怖かったんですって。だから、皮をむいて揚げてみたの。そうしたら食べられるようになって。以来、わが家の大人気メニューに。「長芋のホックリ煮」もそう。子どもはデリケートだから、生の長芋は口の周りがかゆくなるみたいで食べてくれなかったの。じゃあ、火を入れてみようかな、と考えてできたんです。
このように、子どもに鍛えられて”新鮮スイッチ”が入り、今の上田淳子ができたようなものですね。
――それまでフランス料理を専門にされていて、ジレンマは感じられませんでしたか。
上田 双子の子どもを抱えているときに、「私、フランス料理やっています」と言っても、リアルのリの字もないじゃないですか。私、料理の本とは、リアルを伝えなきゃいけないものだと思うんですよ。説得力がないと、意味がない。「世の中ではこうらしい」とか「今これがはやっているらしい」ではなくて、はやりをつくり出せるくらいに情熱のある人が、料理を教えるべきだと思います。
――それで、子どものいるおかあさんのための料理本が次々と生まれたんですね。
上田 私の「新鮮」は、イコール「困った」なんですね。「どうしよう」と悩むからこそ、アイデアが生まれる。今思うと、離乳食で、双子の子育てで、困って悩んでよかったと思います。このことがきっかけになって、「何を編み出したか、何を生み出したか、何で自分が楽になったか」ということが、自分の中で明確になりました。同じように悩んでいる人たちに伝えたいことを考えていたら、次々とテーマが生まれて、これだけ本ができたんですね。


※続きはテキストでお楽しみください。
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