藤沢里菜女流本因坊と佐田篤史七段の熱戦

左/藤沢里菜女流本因坊、右/佐田篤史七段 撮影:小松士郎
第69回 NHK杯 1回戦 第10局は、【黒】藤沢里菜(ふじさわ・りな)女流本因坊と、【白】佐田篤史(さだ・あつし)七段の対局となった。高見亮子さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

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昨年、囲碁界を最も沸かせたニュースは、藤沢里菜女流本因坊の「若鯉戦」優勝だろう。若手棋戦とはいえ、男女混合棋戦での女流棋士優勝は史上初めて。さらに歴史を塗り替えていく予感に高揚したファンも多かったのではないか。今年も、女流名人を防衛して女流三冠を維持しつつ、棋聖戦のCリーグ入り、全日本早碁オープン戦での16 名の本戦入りを決め、活躍が期待される。
佐田篤史七段は、関西棋院の急成長ホープ。昨年は本因坊戦リーグ入りを決め、名人戦でもリーグ入りまであと一勝に迫るなど、実力と勢いを増している。
本局解説の村川大介九段は「二人は、どちらかと言えば似ているタイプ。戦いも強いのですが、ヨセ勝負が得意な印象」と紹介した。
棋風の他にも共通点がある。いつでも誰とでも垣根なく朗らかに接する大人な態度だ。佐田は人懐こい人柄で、藤沢は大らかな笑い声で周囲を和やかにする。
黒1、3、5という珍しい構えから始まった。村川九段は「藤沢さんの棋譜で何局か見たことがある」そうだが、佐田は「全くノーマークでした」。だが、白8と二間ジマリに迫り、左下で先手を取って白14とツケたあたりでは、逆にペースを作っている。藤沢も黒17まで着手が速く、「予想どおりなのでしょう」と村川九段。白18は、右下の白二子を軽く見た手。初めて藤沢の手が止まった。


■佐田、形を作る

藤沢は考慮時間を使い、黒19と大場を占めてから黒21と右下に戻った。黒23では、1図の黒1、3と押したくなるが、「ちょっと力が入り過ぎ」と村川九段。下辺の白が厚くなってしまう。実戦は柔らかくケイマした。ここで2図の白1のケイマは重い手。黒2とツメられると「右辺だけで生きられず、弱い石になります」と村川九段。白の大ゲイマ24に、黒も白二子を取るのはモノが小さい。「白は、黒25に打たせ、白26、28から幅の狭い黒を凝らせようという一連の作戦です」と解説する。


ただ、白32 は「欲張り」と村川九段。「両方から利かそうとしていますが、穏やかな藤沢さんでも怒りたくなる」。そのとおり、黒33とハネ出して反発し、黒37まで、白の形の整え方が難しくなったように見えた。
白38が工夫の一着だった。黒39と遮りたくなるが、そこで白40の切りが用意された手。白46まで、右辺の黒を分断することに成功した。「一番よい打ち方で、白はサバキ形を作ることができました」と村川九段。さかのぼって黒39では、妥協しているようだが3図の黒1の押しがよかったと局後の藤沢。「黒3と白二子を取れば、黒も不満はなさそう」と村川九段も同意する。

※続きはテキストでお楽しみください。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年8月号より

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