謝依旻六段 手どころ満載の大攻防戦
- 左/山城宏九段、右/謝依旻六段 撮影:小松士郎
第69回 NHK杯 1回戦 第7局は山城宏(やましろ・ひろし)九段【黒】と謝依旻(しぇい・いみん)六段【白】の対局となった。佐野 真さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。
* * *
現在の女流碁界は藤沢里菜四冠と上野愛咲美二冠による二強体制となっているが、この人、謝依旻六段を忘れてはいけない。現二強の二人が台頭してくる前は、彼女が全冠を保持した時もあったほど、圧倒的な第一人者として君臨していた。
人一倍、負けず嫌いの彼女が、今の無冠状態に納得しているはずがない。悔しさではらわたが煮えくり返っているはずで、けん土重来、大逆襲を期していることは間違いない。それだけの思いを抱いてしかるべき、正真正銘の実力者である。
NHK杯での実績も申し分ない。今期が15年連続15回目の出場となるが、通算では9勝14敗ながらも、第57期に2勝を挙げてベスト16、さらに第59期には3勝を挙げてベスト8にまで進出した。本局解説者の瀬戸大樹八段も手痛い目に遭っている一人で「僕は謝さんに二度も負かされています」とのことである。対する山城宏九段は、今期出場者の中で最年長の歳。しかしその芸は衰えず、今なお各棋戦で安定した成績を残している。11年連続40回目の出場だ。
■平穏一転、急戦に
1譜 非常に穏やかな立ち上がり。対局前に瀬戸八段が「最近の謝さんはゆっくりとした碁を打つようにもなっていて、棋風の幅を広げている印象です」と語っていたが、まさにそのとおりの進行である。白8、10の二段バネによる簡明な定石を選択したことや、白44のナラビでじっと力をためたあたりに、そうした傾向が現れていると言えそうだ。
白46、48は黒49と換わり、このあと隅で手になるわけではないが、この隅との絡みで周辺にできたさまざまな利き筋を利用して打ち進めようという高級な方針。ただしその利き筋をうまく活用できない碁形となると、白46から黒の交換が悪手化してしまうので、全てはこののちの進行しだいである。
その意味で黒では、Aの肩ツキがまさったか。それなら白が右上で策動する手がかりがないので「悪くない進行だったね」が、局後の山城の感想だった。
実戦は白の切りからと躍り出され、右上隅の味を活用されそうだ。
2譜 黒からによって、とりあえず白の進出は止められたが、中央黒の姿は薄いので、こののち弱点を狙うことができる。加えて白を先手で打てたので、この右上の折衝は白がポイントを上げたと言えるだろう。
白78の消しに回り、焦点は中央へ移る。黒79のカケは白A、黒B、白Cの出切りを誘っており、黒D、白Eののち黒Fとカケて白78の一子を飲み込もうとしている。
ここで謝としては、1図の白1なら冷静だった。これで形勢は悪くないが、のんびりしているとも言えるので、謝の好みではなかったのだろう。ゆえに白80と上方の黒に迫った。
しかし黒83と進出され、中央の白二子も強くない。白86まで左辺黒へのイジメを図ったが、黒87と中央を先制攻撃されてしまった。
白80から86の中でどの手に問題があったのかを断定するのは難しいが、謝にとって想定外の進行となっていることは間違いない。
※続きはテキストでお楽しみください。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年7月号より
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現在の女流碁界は藤沢里菜四冠と上野愛咲美二冠による二強体制となっているが、この人、謝依旻六段を忘れてはいけない。現二強の二人が台頭してくる前は、彼女が全冠を保持した時もあったほど、圧倒的な第一人者として君臨していた。
人一倍、負けず嫌いの彼女が、今の無冠状態に納得しているはずがない。悔しさではらわたが煮えくり返っているはずで、けん土重来、大逆襲を期していることは間違いない。それだけの思いを抱いてしかるべき、正真正銘の実力者である。
NHK杯での実績も申し分ない。今期が15年連続15回目の出場となるが、通算では9勝14敗ながらも、第57期に2勝を挙げてベスト16、さらに第59期には3勝を挙げてベスト8にまで進出した。本局解説者の瀬戸大樹八段も手痛い目に遭っている一人で「僕は謝さんに二度も負かされています」とのことである。対する山城宏九段は、今期出場者の中で最年長の歳。しかしその芸は衰えず、今なお各棋戦で安定した成績を残している。11年連続40回目の出場だ。
■平穏一転、急戦に
1譜 非常に穏やかな立ち上がり。対局前に瀬戸八段が「最近の謝さんはゆっくりとした碁を打つようにもなっていて、棋風の幅を広げている印象です」と語っていたが、まさにそのとおりの進行である。白8、10の二段バネによる簡明な定石を選択したことや、白44のナラビでじっと力をためたあたりに、そうした傾向が現れていると言えそうだ。
白46、48は黒49と換わり、このあと隅で手になるわけではないが、この隅との絡みで周辺にできたさまざまな利き筋を利用して打ち進めようという高級な方針。ただしその利き筋をうまく活用できない碁形となると、白46から黒の交換が悪手化してしまうので、全てはこののちの進行しだいである。
その意味で黒では、Aの肩ツキがまさったか。それなら白が右上で策動する手がかりがないので「悪くない進行だったね」が、局後の山城の感想だった。
実戦は白の切りからと躍り出され、右上隅の味を活用されそうだ。
2譜 黒からによって、とりあえず白の進出は止められたが、中央黒の姿は薄いので、こののち弱点を狙うことができる。加えて白を先手で打てたので、この右上の折衝は白がポイントを上げたと言えるだろう。
白78の消しに回り、焦点は中央へ移る。黒79のカケは白A、黒B、白Cの出切りを誘っており、黒D、白Eののち黒Fとカケて白78の一子を飲み込もうとしている。
ここで謝としては、1図の白1なら冷静だった。これで形勢は悪くないが、のんびりしているとも言えるので、謝の好みではなかったのだろう。ゆえに白80と上方の黒に迫った。
しかし黒83と進出され、中央の白二子も強くない。白86まで左辺黒へのイジメを図ったが、黒87と中央を先制攻撃されてしまった。
白80から86の中でどの手に問題があったのかを断定するのは難しいが、謝にとって想定外の進行となっていることは間違いない。
※続きはテキストでお楽しみください。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年7月号より
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