肥満のクマや音に敏感なキリン... 動物の健康管理に奔走する飼育員たちの知られざる努力

クマが肥満で悩んでます 動物園のヒミツ教えます (メディアファクトリーのコミックエッセイ)
『クマが肥満で悩んでます 動物園のヒミツ教えます (メディアファクトリーのコミックエッセイ)』
sirokumao
KADOKAWA
1,210円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> HMV&BOOKS

 各地に散らばる無数の動物園や水族館。飼育動物の種類は数知れず、世界の珍しい生き物に魅了されている人は多い。また、北海道・旭山動物園を筆頭に、動物がありのままの姿で過ごせるように工夫された"行動展示"への注目も高まった。動物と日々向き合う飼育員ならではの目線が展示施設の改善につながり、ブームを巻き起こしたといっても過言ではないだろう。

 そんな魅力あふれる動物園の裏側に迫ったのが、今回ご紹介するsirokumao氏の著書『クマが肥満で悩んでます 動物園のヒミツ教えます』(KADOKAWA)。"動物たちの問題"に立ち向かう飼育員の努力や創意工夫を、豊富なイラストともに解説した1冊だ。ちなみにsirokumao氏は、動物園を応援するボランティア「市民ZOOネットワーク」のスタッフ。同団体が選出する「エンリッチメント大賞」では、現地調査や最終選考のプレゼンを担当しているという。

 エンリッチメントとは「動物のための工夫」を指し、本書にセレクトされた飼育の取り組みもsirokumao氏ならではの観点が光る。たとえば百獣の王・ライオンの"爪切り"について見てみると、動物園では爪研ぎを設置するなど"自然に爪が削れる仕組み"を導入。また"動物の自発的な受診動作"を誘導する訓練「ハズバンダリートレーニング(ハズトレ)」を取り入れ、ライオンが柵から手を出してじっとしている間に爪を切るという方法も。

「このハズトレを日頃からやっておくことで動物に協力してもらって麻酔をかけなくても、日々の健康管理ができるようになります。

ポイントは『怖いことはしないよ』『協力すると良いことがあるよ』とわかってもらうことです」(本書より)

 動物の知識がなければ、つい「麻酔を使えばいいのでは?」と考えがちだが、sirokumao氏いわく麻酔はリスクがとても高いそう。健康管理のために負担を与えてしまっては本末転倒なので、動物がいかにリラックスした状態で健康チェックを受けられるかが飼育員の腕の見せ所だ。

 続いてはニホンザルの飼育について見てみよう。展示施設は水洗いのできるコンクリートの山が多いものの、動物本来の生息環境を作り出すためには緑の中で過ごせることが大切。しかし草木や土の運搬、飼育場の衛生管理、定期的な植樹など飼育員の苦労は多い。それでもサルたちが快適に過ごせるよう、動物園では努力が続けられているという。

 なお北九州市小倉北区にある「到津の森公園」ではエリマキキツネザルが過ごす展示スペースにロープを組み合わせ、複雑な立体空間を演出。エリマキキツネザルの行動を活発化させることに成功し、2008年にエンリッチメント大賞を受賞した過去を持つ。

「遊具を設置するだけでなく、継続的に動物たちの行動を記録し、評価をし、結果を踏まえて改善するというサイクルを確立させているところに注目が集まりました」(本書より)

 動物にとって飼育環境がどれだけ大切か伝わってくる一方、気になるのは堂々とタイトルになっているクマの"肥満"問題。広大なサファリパークで過ごすクマは運動不足と無縁のように思えるのだが、sirokumao氏は以下のように指摘する。

「いくら広い敷地があっても食べ物があれば人間と同じく堕落した生活を送ってしまうのです」(本書より)

 どうやらクマも餌をもらうと、"食っちゃ寝"してしまうらしい......。そこで飼育員はサファリパークの敷地にクマが好む緑の草や果物を栽培し、昆虫が発生しやすい朽ち木もセット。クマの食べ物の量を徐々に減らして"自然の食べ物に慣れる環境"を整えた結果、減量に成功したクマたちは"クマらしさ"を取り戻したという。

 本書で紹介されている取り組みの中でも、キリンに対するユニークな"環境音"のアイデアが面白い。耳のいいキリンにとって、動物園に響く大声や工事の振動もストレスの要因になる。また、賑やかな日中とは異なり、静まり返った夜はちょっとした物音すらキリンを怯えさせてしまう。そこで"音楽"を流して無音ではない環境を作り、キリンが夜でも安心して過ごせるように工夫したのだ。

「動物たちが本来もつ特性をしっかり理解しつつ動物園という場所で幸せに暮らしていくには何をしてあげたら良いのか?

飼育員さんたちの探求は尽きることはないのです!」(本書より)

 来園者がじっくり動物を観察できるのは、動物そのものの魅力と彼らを支える飼育員の存在があってこそ。飼育環境を隅々まで見渡すことで、限られた空間でも「健やかに生きていける」ための創意工夫に気づけるのではないだろうか。

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム