たどり来て いまだ道半ば

観戦記者だからこそ垣間見ることのできる棋士の側面を綴る人気コラム「観戦記者の独り言」。6月号は棋聖戦防衛決定局の第5局の観戦記を手がけた村上 深さんが担当します。

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第45期棋聖戦は挑戦者の河野臨九段を退け、井山裕太棋聖がタイトル防衛を果たしました。私は防衛決定局の第5局の観戦記を担当。現地でタイトル防衛の瞬間を目の当たりにしました。
この防衛戦は二つの意味で節目でした。一つ目は、史上初の棋聖位9連覇。ただ、本因坊戦で趙治勲先生の10連覇という記録がありますから、こちらはそれほどの注目を集めません。二つ目が重要で、井山さんの七大タイトル獲得数が50を数えたことです。
井山さんは31歳となった今日まで七大タイトル獲得数を積み上げました。二度の七冠達成は空前にして絶後でしょう。
しかし、将棋界にも超人がいました。羽生善治九段です。羽生九段の総タイトル獲得数は99を数えます。羽生九段が獲得数を50に到達したのは31歳ですから、同じペースでタイトルを獲得していることになります。
羽生九段は井山さんより19歳年長の50歳。井山さんはこれから年平均で2・5個のタイトルを獲得していけば、羽生九段のペースにほぼ並びますね。
しかし、近年はAIの登場で布石研究や形勢判断の質が向上し、これまで年長者が優れていると思われていた大局観の優位性が薄まりました。若い人が有利な読み合いが結果に直結しやすいのです。
羽生九段の記録と比べれば、井山さんはまだ半分。将棋の升田幸三実力制第四代名人の名言をもじらせてもらえれば「たどり来て いまだ道半ば」と言えるでしょうか。
※段位・タイトルはテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年6月号より

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