「最後のNHK杯かも」 結城聡九段の苦悩

左/結城聡九段、右/大竹優五段 撮影:小松士郎
第69回 NHK杯 1回戦 第4局は結城 聡(ゆうき・さとし)九段【黒】と大竹 優(おおたけ・ゆう)五段【白】の対局となった。村上 深さんの観戦記から、序盤の展開をお届けする。

* * *

本局は結城聡九段の自戦解説である。本来であれば結城の主観で書くべきだが、今回はあえて記者の主観で書かせていただく。理由がある。結城の言葉から痛みを感じたからだ。
結城は負けた。敗戦後すぐの取材だったため、まともに話を聞けるだろうか、と私は不安だった。果たして、盤上のことはポツリ、ポツリと話す。深く聞いていくのも難しい雰囲気で、正直ちょっと困ってしまった。
盤上の振り返りを終え、雑談。結城は少し落ち着きを取り戻してきた。これが面白かった。家族のこと。棋士としての在り方。時折、私は寂しさに襲われた。これは恐らく、私も幼少期にプロを目指したことがある経験と、その時に培った価値観を刺激したからだ。
心情的には、敗者に光を当てることをどうしても遠慮してしまう。だが、極論すれば優勝者以外は皆等しく敗者とも言える。結城の言葉を借りて、棋士の苦悩をお伝えしていきたい。
白10に黒43、白14、黒22と打てば穏やか。実戦は黒11 、13と激しく出切った。最近研究が進む難解定石の一つ。結城は「仕掛けるべきではなかった。深く研究しているわけではなかったので」とここは反省の弁。
白38 と生き、右上黒は生きるスペースが足りない。ただ黒39 に白40 と大竹優五段は自重。白43から狭めれば黒を取れそうだが、自分のダメがつまり「白の味が悪い」(結城)。
 
 

■「最後のNHK杯かも」

結城は4児のパパである。上が中学2年生、下が小学1年生だそうで、ようやく手が離れ始める頃だろうか。ただ、成人までは先が長い。パパは頑張らなくてはなるまい。
「でも、NHK杯に出られるのも今回が最後かもしれないと思ってます」と結城は言う。まさか、どういうことだ。
白44の消しに黒45 と反撃。これに白46 、黒47 とお互いにあえてハザマに空けた。69 の点を相手に打たせようと誘導し合っている。白48 、黒51と大場に打ち合い、布石のやり直し。黒63は雰囲気の一着で、上辺白を包囲しながら、左辺への侵入もうかがっている。
大竹も放置は危険と見て、白68 と逃げ出した。次の黒69に対し、結城は「流れを悪くした」と顔をしかめた。1図、黒1と打ちたかったと言う。白2、4が気になったそうだが、白12 までの競り合いが考えられる。

また、白80に黒81が利かされ。白A、黒B、白Cの狙いが残り、のちに波乱を呼ぶことになった。黒81では2図、黒1が成立した。白2とくれば黒11までコウになり、黒13 が絶好のコウダテ。白はaと右上黒とのフリカワリを目指すが、これは黒が有利だ。従って白2 では3が相場で、そのあとに黒9がよかった。 
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年6月号より

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