万葉集に詠われたアジサイ

撮影:田中雅也
アジサイは、古来より私たちの身近で咲く日本原産の植物です。ところが『万葉集』には、アジサイを詠んだ歌が二首しかありません。万葉歌人の心に映ったアジサイ、その後の時代のアジサイについて奈良県立万葉文化館の指導研究員・井上さやかさんにひもといていただきました。

* * *

言問(ことと)はぬ木すら紫陽花(あぢさゐ)諸弟(もろと)らが練(ねり)の村戸(むらと)にあざむかえけり

大伴家持  巻四・七七三




■現代語訳

ことばをいわぬ木にもアジサイのような変化の花もあることよ。諸弟らの練達の心にだまされてしまった。

■解説

この歌は、大伴家持が恭仁京(くにきょう/京都府木津川市加茂町)から平城京(奈良市)の大伴坂上大嬢へ贈った一首です。難解な歌ですが、前後には二人の贈答歌群があり、次の歌(七七四番歌)にも登場する「諸弟」とは、二人の間を行き来した使者の名かともいわれています。「村戸」は腎臓のこととみられ、人智をつかさどる器官と考えられていたようです。
「言問はぬ木」とは、言葉を発する人間に対して言葉を発しない草木という意味です。言葉を発しないことを、感情をもたないととらえたようです。「石木」なども用いられ、対比させることで人間の恋心のつらさなどを表現しました。『日本書紀』では世界の始まりを草木がものいうときとも表現しており、日本独特の発想といわれています。
※もう一首の解説はテキストでお楽しみください。
■『NHK趣味の園芸』2021年6月号より

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