一力遼天元、余正麒八段 絶好調の二人が激突したNHK杯決勝戦

左/一力遼天元、右/余正麒八段 撮影:小松士郎
3回連続の決勝進出となった一力遼(いちりき・りょう)天元【黒】と、7回ぶりの関西棋院勢優勝を目指す余正麒(よ・せいき)八段【白】の決勝戦となった第68回NHK杯テレビ囲碁トーナメント。両者譲らず激しいつばぜり合いとなり、戦いにつぐ戦いの碁となった。村上深さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。

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決勝戦収録の約1か月前にも、名人戦リーグで一力遼天元と余正麒八段の対決が行われていた。一力は11連勝中、余は22連勝中と恐ろしいまでに絶好調である二人の激突であったが、その時は一力が大乱戦を制した。
とはいえ、たった一局の勝敗だけで本局を「一力、有利か」と予想するのはあまりに浅慮であろう。両者の昨年の成績をひもとくと、一力は53勝13敗で日本棋院の最多勝利、最多対局、勝率第1位の各賞を受賞。かたや余も43勝7敗で関西棋院の最優秀棋士、連勝の各賞を受賞している。特に余は、準々決勝で井山裕太NHK杯選手権者を下して波に乗っていると言えよう。
ただ、一力は何と言っても早碁棋戦に恐ろしく強い。昨年ようやく七大タイトルのうちの二つである天元位、碁聖位を獲得したが、彼の実力を思えば「ようやく」と表現したくもなる。これまでに獲得した早碁棋戦のタイトルは、NHK杯1期、竜星戦4期、全日本早碁オープン戦1期と群を抜いている。
東西の当代第一人者が決勝で相まみえることになった。解説者として花を添えるのは芝野虎丸王座。井山前NHK杯選手権者がいないこのスリーショットを眺めながら、時代の転換期に立ち会っているような気がした。


■一力の心意気、応える芝野

握って一力の先番。黒5と高中国流に構えた。布石のトレンドが変化した現代において、棋士の対局で見かけることはまれである。これに解説の芝野虎丸王座が反応した。「昨年の王座戦で僕が打ってから、たまに見かけるようになりました」とはにかみながら言う。局後、一力に問うと「解説が芝野さんと知って、黒番なら打ってみようかと」とニヤリ。解説者へのネタを提供した一力の心意気と、きちんと応えた芝野に拍手を送りたい。
白12が中国流への侵入として常とう手段と化した。もちろん、一力は百も承知で、黒15、17というカウンターを準備していた。黒15で1図、黒1、3なら無難だが、白4まで白の注文が通り、穏やかな進行になる。白18で2図、白1と切り返すのは、白9までのフリカワリとなる。本図は右下黒が手厚い形で、黒10に先行すれば黒に不満はない。 

白24では3図、白1、3が最強の抵抗で、以下黒8までの進行が予想される。以降も非常に難解な戦いになるが、恐らくこれは余の研究範囲外だったのだろう。実戦は右辺白を捨てて、白32、34と下辺に展開した。局後、一力は「取れれば不満はありません」と述懐した。

※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年5月号より

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