オーガニックな肥料 サツマイモとホウレンソウには何を使う?
- 「きれいな紫色!」「ていねいに掘り出して、どんなふうにイモがついているか見てね」 撮影:渡辺七奈
大学の教育農場を舞台に有機野菜作りを学ぶ本企画。今回は、サツマイモを掘ってホウレンソウのタネをまき、有機の肥料とタネについて考えます。
* * *
■守られて育つアブラナ科の野菜
暑さがやっと和らいだ10月の初め。東京都多摩市にある恵泉女学園大学の教育農場では、コスモスが風に揺れています。畑を歩きながら学生が人さし指を上げると、赤いトンボがすっと着地。驚く友だちに、「アキアカネは止まりやすいの」と笑います。
その足元では、2週間前に植えつけたハクサイがずいぶん大きくなりました。苗作りから農薬を使わず、防虫ネットで防除もしていないのに、葉に虫食いはほとんどありません。ダイコンも健やかな葉を広げています。わきに敷いた草にクモがすみつき、害虫を食べてくれるという話でしたが、有機の畑の力には驚かされます。
別の区画には、何やら筋状に出そろった3種類の芽。「1週間前にタネをまきました。真ん中がサニーレタスで、両わきがアブラナ科の小カブと、えーと、何だっけ?」と学生が大笑い。キク科のレタスを挟んで育つアブラナ科の野菜は、ラディッシュ、小カブ、チンゲンサイのなかから、学生(2人1組)たちが好きなものを選んだそうです。アブラナ科とキク科の混植は、有機の野菜作りの技の1つ。
「秋冬の畑はアブラナ科の野菜が多くなります。同じ種類のものばかり植えると害虫の増える可能性が高まるので、キク科の野菜をともに植え、その独特の香りでアブラナ科を好む虫を遠ざけるのです」。
そう教えてくれたのは、指導教員の澤登早苗(さわのぼり・さなえ)さんです。レタス類は発芽する際に光を必要とする好光性種子。土を薄くかけるため初心者にはタネまきが難しいのですが、うまく発芽してひと安心です。
■サツマイモの肥料は自作の草木灰
今日は秋のお楽しみ、サツマイモの収穫です。さし苗を定植したのは5月下旬。ほかの野菜は元肥(もとごえ)に牛ふん堆肥や発酵鶏ふん、米ぬかを使いますが、サツマイモにはそのどれも使いません。肥料分の多い土では、葉ばかり茂り、イモが太らない「つるボケ」を起こすから。
「代わりに畑に入れたのは草木灰(そうもくばい)でした。草や木の灰で、私たちは剪定枝(せんていし)などを燃やして、ここで作っています。草木灰には植物の根を健康に育てるカリウムが多く含まれているので、太った根を食べるサツマイモの栽培に適しているんです。園芸店などで売られる草木灰のなかには、廃材などを燃やしているものもあるので注意してください。こだわって作っているものには、パッケージにそう書いてあると思います」
夏、つるが長く育つ前にしっかり除草し、草マルチを根元に敷いたら、それきりほったらかし。サツマイモはつるを伸ばして地面を覆い、自らマルチをして草の繁茂と土の乾燥を防ぎながら育ちました。学生たちはそのつるを刈り取ると、露出した根元の茎のまわりを、遺跡発掘さながら、ていねいに掘り始めます。
「わー! 見えた!」「きれい!」土の中から鮮やかな紫色が顔を出しました。「サツマイモは、掘り上げたときがいちばんきれい。家に持ち帰ったら、洗わずに日に当てて乾かしてね。10日もすれば表面が堅くなって、そうなれば長もちします。その過程で色はあせるけれど、しかたのないこと。サツマイモは寒くなるまでおくと、でんぷんが糖に変わって甘くなります。でも早く甘くしようとして冷蔵庫に入れたらダメ。腐りやすくなるからね」。
■ホウレンソウの土作り石灰は使いません
この日はもう1つ大仕事が。サツマイモの後作にホウレンソウのタネをまくのです。授業は週に1度きりなので、日に日に気温が下がるこの時期、タネまきは翌週まで待てません。
「ホウレンソウは土が酸性だとうまく育ちません。日本は雨が多い影響で酸性土壌になりやすいので、特に酸性を嫌うホウレンソウは土を中性(pH7.0)にする必要があります」と澤登さん。一般的な方法は石灰をまくこと。主要成分がカルシウムの石灰を混ぜると土はアルカリ性に傾きますが、土が硬くなるという弊害があります。
「林だった場所に建物を建てるときなど、木を伐採した跡地に石灰を混ぜて地盤を固め、基礎が揺らがないようにするんですよ」。
生き物が多くすむ畑の土に、そのようなものは入れられません。
「だからここでも草木灰を使います。草木灰も土をアルカリ性に傾けてくれます。ホウレンソウの元肥には、発酵鶏ふん、米ぬか、草木灰を畑に入れて、それからタネをまきましょう!」。
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK趣味の園芸 やさいの時間』連載「週1から始めるオーガニック」2020年10・11月号より
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■守られて育つアブラナ科の野菜
暑さがやっと和らいだ10月の初め。東京都多摩市にある恵泉女学園大学の教育農場では、コスモスが風に揺れています。畑を歩きながら学生が人さし指を上げると、赤いトンボがすっと着地。驚く友だちに、「アキアカネは止まりやすいの」と笑います。
その足元では、2週間前に植えつけたハクサイがずいぶん大きくなりました。苗作りから農薬を使わず、防虫ネットで防除もしていないのに、葉に虫食いはほとんどありません。ダイコンも健やかな葉を広げています。わきに敷いた草にクモがすみつき、害虫を食べてくれるという話でしたが、有機の畑の力には驚かされます。
別の区画には、何やら筋状に出そろった3種類の芽。「1週間前にタネをまきました。真ん中がサニーレタスで、両わきがアブラナ科の小カブと、えーと、何だっけ?」と学生が大笑い。キク科のレタスを挟んで育つアブラナ科の野菜は、ラディッシュ、小カブ、チンゲンサイのなかから、学生(2人1組)たちが好きなものを選んだそうです。アブラナ科とキク科の混植は、有機の野菜作りの技の1つ。
「秋冬の畑はアブラナ科の野菜が多くなります。同じ種類のものばかり植えると害虫の増える可能性が高まるので、キク科の野菜をともに植え、その独特の香りでアブラナ科を好む虫を遠ざけるのです」。
そう教えてくれたのは、指導教員の澤登早苗(さわのぼり・さなえ)さんです。レタス類は発芽する際に光を必要とする好光性種子。土を薄くかけるため初心者にはタネまきが難しいのですが、うまく発芽してひと安心です。
■サツマイモの肥料は自作の草木灰
今日は秋のお楽しみ、サツマイモの収穫です。さし苗を定植したのは5月下旬。ほかの野菜は元肥(もとごえ)に牛ふん堆肥や発酵鶏ふん、米ぬかを使いますが、サツマイモにはそのどれも使いません。肥料分の多い土では、葉ばかり茂り、イモが太らない「つるボケ」を起こすから。
「代わりに畑に入れたのは草木灰(そうもくばい)でした。草や木の灰で、私たちは剪定枝(せんていし)などを燃やして、ここで作っています。草木灰には植物の根を健康に育てるカリウムが多く含まれているので、太った根を食べるサツマイモの栽培に適しているんです。園芸店などで売られる草木灰のなかには、廃材などを燃やしているものもあるので注意してください。こだわって作っているものには、パッケージにそう書いてあると思います」
夏、つるが長く育つ前にしっかり除草し、草マルチを根元に敷いたら、それきりほったらかし。サツマイモはつるを伸ばして地面を覆い、自らマルチをして草の繁茂と土の乾燥を防ぎながら育ちました。学生たちはそのつるを刈り取ると、露出した根元の茎のまわりを、遺跡発掘さながら、ていねいに掘り始めます。
「わー! 見えた!」「きれい!」土の中から鮮やかな紫色が顔を出しました。「サツマイモは、掘り上げたときがいちばんきれい。家に持ち帰ったら、洗わずに日に当てて乾かしてね。10日もすれば表面が堅くなって、そうなれば長もちします。その過程で色はあせるけれど、しかたのないこと。サツマイモは寒くなるまでおくと、でんぷんが糖に変わって甘くなります。でも早く甘くしようとして冷蔵庫に入れたらダメ。腐りやすくなるからね」。
■ホウレンソウの土作り石灰は使いません
この日はもう1つ大仕事が。サツマイモの後作にホウレンソウのタネをまくのです。授業は週に1度きりなので、日に日に気温が下がるこの時期、タネまきは翌週まで待てません。
「ホウレンソウは土が酸性だとうまく育ちません。日本は雨が多い影響で酸性土壌になりやすいので、特に酸性を嫌うホウレンソウは土を中性(pH7.0)にする必要があります」と澤登さん。一般的な方法は石灰をまくこと。主要成分がカルシウムの石灰を混ぜると土はアルカリ性に傾きますが、土が硬くなるという弊害があります。
「林だった場所に建物を建てるときなど、木を伐採した跡地に石灰を混ぜて地盤を固め、基礎が揺らがないようにするんですよ」。
生き物が多くすむ畑の土に、そのようなものは入れられません。
「だからここでも草木灰を使います。草木灰も土をアルカリ性に傾けてくれます。ホウレンソウの元肥には、発酵鶏ふん、米ぬか、草木灰を畑に入れて、それからタネをまきましょう!」。
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK趣味の園芸 やさいの時間』連載「週1から始めるオーガニック」2020年10・11月号より
- 『NHK趣味の園芸やさいの時間 2020年 10 月号 [雑誌]』
- NHK出版
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