井山裕太NHK杯選手権者が振り返る 15年前の初出場

撮影:小松士郎
出場15回目の第67回で3回目の優勝を飾った井山裕太(いやま・ゆうた)NHK杯選手権者。『NHK囲碁講座』2020年7月号には、15年前の初出場観戦記(2005年7月号掲載)を再録しています。彦坂直人九段との記念すべき一局を振り返ってもらいました。

* * *

――15歳10か月でのNHK杯出場。これは史上最年少記録です。
NHK杯は子供のころからずっと見ていました。そこに自分が出場して打てるというのは、本当にうれしかったです。
――NHK杯は50名しか出場できません。
実は賞金ランクによって出られることになるとは思っていませんでした。正確には、驚きとうれしさが半分半分の初出場でした。

■「打ちたい手を打つ」

――初出場となった彦坂直人九段との対局を振り返っていただきます。感想は?
久しぶりに見ました。いやー、弱いですね(笑)。皆さんは結果に注目していたのでしょうが、たまたま勝てただけ。内容は彦坂先生にはっきり劣っています。
――厳しい評価ですね。
プロ入り(02年)してからこのくらいまで、棋風はおとなしめでした。この年に転機を迎えたんじゃなかったかな?
――転機とは?
NHK杯でも強い先生方と当たり、この年(05年)の秋には全日本早碁オープン戦で優勝したのですが、そこで対局した一流の先生方は、皆さん着想がとても厳しい。今のままでは勝っていくのは難しいと感じました。
――今では打たないという手はありますか。
おとなしい手が多いので、いっぱいありますよ。特に2譜の右辺、黒59のツケから黒61のブツカリは、現在は発想にない手段かな。まだまだだな、って感じです(笑)。


――逆に、今でもこう打つというのは?
当時とは感覚も違ってきているし、探すのは難しそうですね。
――当時と現在では、棋風に違いは?
基本的に、「打ちたい手を打つ」という精神に変化はありません。ただ、当時はバランスを重視していましたからね。相手への当たりが緩いというか弱いというか。ただ、このスタイルが悪いというわけではありません。
――どういうことでしょう?
四段当時はこれで打っていたわけで、相手への当たりが弱いからといってもマイナスばかりではありません。そこにはプラス面もあるわけで。当時のスタイルを突き詰めれば、それはそれでいけるだろうということです。
――AI(人工知能)が主流の現在の碁と決定的に違うという場面はありますか。
それはもう序盤ですね。戦術がだいぶ変わっています。AIには石の効率を徹底的に重視する印象があります。用済みの石はけっこう無造作に、平気で捨ててしまう。大きく変わったとすればこのあたりでしょう。
――対戦相手の彦坂九段に対する思いは何かありましたか。
彦坂先生は名古屋の中部総本部の所属。私が所属する大阪の関西総本部とは合同で予選が行われることがあります。ですから、よく教わっていました。天才肌で独創的。どこかAIに通じるものがあります。打っていて、感心させられることもよくあります。
――この碁ではいかがでしょう?
やはり奔放に打たれていると思います。3譜の白72なんて、らしさ全開ですよ。華麗というほかない。


――確かに、ハザマを空けた大胆な一手です。井山さんはすぐに黒73へ。
エサに飛びついているようですね(笑)。
――この碁に勝ったときの気持ちは?
もちろん、うれしかったです。NHK杯は見ている方が多いですから。
――続く2回戦で敗退。しかし、この年は注目を集めました。
先ほど触れた全日本早碁オープン戦での優勝は、初タイトルでした。規定により七段に昇段。想像もしていなかったですね。タイトルなんてまだ遠いと思っていたので、うれしさよりも驚きのほうが大きかった。
――当時の自分に一声かけるとすれば?
碁の内容に関してはいろいろ言いたいことはありますが、今は力を蓄える時期だぞと、目先の結果にとらわれるなと言ってあげたい。
※続きはテキストでお楽しみください。初出場時の観戦記もお見逃しなく!
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2020年7月号より

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