18枠をめぐる熱戦 片上大輔七段が見たNHK杯予選

撮影:河井邦彦
NHK杯は節目の第70回を迎えました。全棋士参加棋戦のため、今回も本戦出場の18枠をかけて大ベテランから新四段まで136名が戦いました。今回は、全ての棋譜から見えてくる戦いの見どころを片上大輔(かたがみ・だいすけ)七段につづっていただきました。

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縁あって、今期NHK杯予選の記事を書かせていただくことになりました。棋士が担当するのは過去にあまり例がないはずで、執筆に当たっては記者の方々が行う通常の取材に代えて、予選のすべての棋譜を盤に並べました。今月と来月、よろしくおつきあいください。

■18枠をめぐる争い

令和になって初めてのNHK杯予選は、2月に東京12、関西6のブロックに分かれて行われた。数えてみると7人ブロックが8つに8人ブロックが10、都合136人の棋士が参戦している。私が棋士になった頃は6or7人ブロックが半々ずつという感じだったので、各ブロック1人ずつくらい増えていることになる。
大勢の棋士の中で本戦の椅子を勝ち取れるのは一人だけ、と考えると狭き門だが、逆に言うと1日で複数の白星を稼ぐチャンスでもあり、棋士なら誰もが気合いの入る戦いだ。私も今期、執筆のこともあり気合いを入れ直して臨んだところ、幸運にも予選を突破することができた。13ブロックなので将棋の内容は次号でお伝えする。

■新参者と去り行く者

今年の新四段は石川優太、出口若武、渡辺和史、黒田尭之(予選ブロック順、以下同)の4人。このうち渡辺は遠山六段に、石川は豊川七段にそれぞれ1回戦で敗れた。いずれもチャンスのある内容だったが終盤のミスが響いた。基本的に早指しは若者の土俵と思うが、当然ながらプロは皆強く、小さなミスを許してもらえない。
黒田は1回戦で宮本五段の中飛車を破るも、2回戦は伊奈七段に相掛かりで敗戦。序盤の細かいところでスキが生じ、中盤以降はチャンスが巡って来なかった。
唯一の予選突破を果たしたのが出口。こちらも内容は次号でお伝えする。
いっぽう今期で最後のNHK杯出場となったのが土佐浩司八段、藤倉勇樹五段、伊藤博文七段、桐山清澄九段の4名。中でも桐山は1000勝なるかで注目を集めていたが、1回戦で長沼七段に敗れ大記録達成は厳しい情勢となった。他の3名もいずれも1回戦で敗退となったが、サバサバしているとかそういう様子はなく、棋譜を見ると必死で戦っている様子が伝わってきた。
1図は11ブロックの畠山成—伊藤博戦の最終盤、173手目の場面。追われ続けること数十手、たどりついた最果ての地で一人ぼっちの玉は何を思っていたのだろうか。

 


伊藤は△2九玉とついに一段目にトライ、ところがこれが痛恨の敗着。すかさず▲1八銀と打たれ、△2八玉は▲2五竜、△1九玉(本譜)は▲3九竜△1八玉▲5四角でトン死。ちなみにそこで歩合があれば詰まず勝ちなのだが、あいにくその一歩がない。戻って1図では△3七金合ならば勝ちだった。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK将棋講座』2020年7月号より

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