通好みの一局

左/野月浩貴八段、右/深浦康市九段 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯準々決勝第1局は、野月浩貴(のづき・ひろたか)八段と深浦康市(ふかうら・こういち)九段の対局となった。小田尚英さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。


* * *


■サッカー部集合

ベスト8のうち、Aブロックは40代後半で占められた。ベテラン健在というわけだが、4人がいずれもポスト羽生世代というのが興味深い。通好みの一局が、この深浦―野月戦だ。
「野月八段は攻めっ気八分で鋭さとセンスのよさが特長、深浦九段はバランスがとれた棋風で決め手を与えず粘り強い」。
こう2人を紹介したのが解説の木村一基王位で、やはりベスト8メンバー。3人は将棋連盟サッカー部の古くからの仲間でもあり、対局前は木村の王位就位パーティーなどの話題で和やかだった。
2人の対戦は意外と少なく、これまで野月2連勝から深浦3連勝の5局。直近は2010年のNHK杯2回戦で、野月としてはシード権のかかる本局で借りを返したいところ。先手を得て得意の相掛かりに誘導した。
1図の▲3六銀は「2年前までは相掛かりの主流だったが、今はやや少ない」と木村。そして、盤から離れて座るいつもの姿勢で野月がじっくりと考えて指したのが、玉から金が離れる2図の▲3八金。木村は「ほうこれは…」。「目新しい一手、驚きの一手です」と続けた。

 



■なるほどの金

▲3八金(2図)を見て深浦は、「なるほどなあと思いました」と局後に話した。


 「銀を使おうという手」と木村は説明する。先手は▲4七銀と活用したいが、4九金のままだと△2四歩から後手に銀冠に組まれてしまう。△2四歩に▲同飛は△2五歩で、△2三銀と△2八角が後手の狙い。▲3八金は△2八角を防いでいる。
「突かれて取れないのはしゃくだから」とは野月。若いころ横歩取り△8五飛の定跡作りをリードした彼の意欲や才気は相変わらずで、それがうれしい。
本譜は△2四歩▲同飛(3図)から、緊迫の攻防が始まった。

 



■1秒も読まない飛車

深浦は▲3八金への対応がわからず「いろいろおびえ過ぎ」だったという。▲3四飛で、△2八角が打てない、飛車が捕獲できない、歩損という状況。新構想の言い分を通した。なので代償を求めて反発しないといけない。△7五歩。▲同歩△2三銀▲3六飛△5四角▲4五歩△8七角成が狙い筋。木村「一手間違うと形勢に差が出ます」
△2三銀には野月、「迷いました。▲3六飛では弱いか」それも有力で△7六歩▲7五銀△8五飛▲6四銀が一例。深浦は、▲3五飛(4図)を「1秒も読まなかった」。未知の領域の戦いは見ていて楽しい。


※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2020年4月号より

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