女子大生と学ぶオーガニックな野菜作り 命あふれる畑の授業
- 実習前に、澤登先生の講義を受ける学生たち。青空教室に吹き抜ける風が心地よい。撮影:渡辺七奈
化学肥料と農薬を使わないオーガニックな野菜作り。憧れるけど、手間がかかって難しそう。いえいえ、じつは週1でもできる世話なし農法なんです。ともに学ぶのは、菜園ビギナーの女子大生! 1年にわたって、東京都内の有機農場から命あふれる畑の授業をお届けします。
* * *
■たくさんの命で賑わう草だらけの畑
「有機栽培って大変そう。化学肥料を与えずに野菜って育つの? 農薬を使えないから、野菜の世話にすごく手間がかかるんでしょう?」そう思い込んでいる菜園家はきっと多いはず。ところがこんな話を耳にしました。
――某女子大で、園芸シロウトの学生たちが有機栽培で野菜を作っているんだって。しかも畑に立つのは、週に1回、90分の授業のときだけなんだって!
本当にそれで有機野菜が作れるの!? ということで、訪れたのは東京都多摩市の恵泉女学園大学。キャンパスに隣接した教育農場は、雑木林に囲まれた谷戸にありました。ときは夏真っ盛り。麦わら帽子の学生たちについていくと、目に飛び込んだ光景にびっくり!
一面草の緑で、畑とは思えなかったからです。
農場の中の小道を進むと、野菜の植わっている場所だけは枯れ草が敷いてあります。草にも土にもさまざまな虫がいて、草の間には花やハーブも育っています。多種多様な命があふれるなんとも賑やかな畑でした。
「先生、誘引って、これでいいの?」「茎を傷つけないように、ひもの結び方に気をつけてね」。その日の授業はキュウリの世話と収穫。学生たちは春に入学して初めて野菜作りをすることになった1年生です。園芸を教育の柱に据えたこの大学では、「生活園芸」の実習は全学年の必須科目なのです。「キュウリってこんなに大きくなるのに、なんでお店で売ってるのは小さいの?」「輸送しやすいように決まったサイズで収穫しているからよ」。学生たちの質問に答えているのは澤登早苗(さわのぼり・さなえ)先生。この農場を有機畑に変えた中心人物です。
■化学肥料も農薬も使う必要がなくなります
長年、化学肥料と農薬を使っていたこの畑を有機栽培に切り替えたのは、1994年の春でした。「当時の畑の土は、有機物がとても少なくてやせていました。水はけが悪いから、雨が降ればすぐにドロドロ、乾けばカチカチ。土には、やせた土地によく育つヨモギやスギナばかり生え、畑にはミミズもテントウムシも生き物がほとんどいなかったんですよ」。
澤登さんと当時の学生たちは、そんな土を変えようと奮闘しました。土の中に有機物を増やすため、農場の土手の草を刈って畑に入れ、近隣の植木屋さんからもらった剪定枝(せんていし)を入れ、落ち葉で腐葉土を作って入れました。そして、それまで抜いて捨てていた草は、積極的に生やして有機物として畑へ戻しました。土の中に有機物が増えると、それを食べる多様な生き物がすみつき、有機物を分解して植物にとって栄養豊かな土を作ります。さらに生き物が動き回ることで土は耕され、ミミズや微生物の働きによって細かい土からなる団子状の集まりが無数にできます。そのすき間には水分や空気が保たれ、植物が育ちやすい土になるのです。
「でも最初のころに作ったキュウリはひどかった。生育不良で弱っているから病害虫に負け、実をつける前に枯れてしまうものもありました。それでも根気よく土作りを続けるうちに、畑の様子が変わってきたんです。スギナやヨモギは減り、肥えた土に生えるハコベやホトケノザなどが増えてきました。キュウリもよいものがとれるようになったんですよ」
今では農場の土はフカフカで、握って開くとほろほろと崩れます。畑はこんなに変わったそうです。
◎土は、生き物や草の根が耕すので、常に軟らか。耕うんの必要なし。
◎水はけがよいので、雨水がたまらない。だから畝(うね)を立てる必要もなし。
◎元肥(もとごえ)だけで野菜が育つほど土が肥えているので、追肥は必要なし。
◎多様な生物がすみ、害虫や病原菌を食べる虫もいるので、農薬を使う必要もなし。
「有機栽培は、化学肥料と農薬を“使ってはいけない”野菜作りと思われていますが、本当は、化学肥料も農薬も“使う必要がない”野菜作りなんですよ」
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK趣味の園芸 やさいの時間』連載「週1から始めるオーガニック」2020年4・5月号より
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■たくさんの命で賑わう草だらけの畑
「有機栽培って大変そう。化学肥料を与えずに野菜って育つの? 農薬を使えないから、野菜の世話にすごく手間がかかるんでしょう?」そう思い込んでいる菜園家はきっと多いはず。ところがこんな話を耳にしました。
――某女子大で、園芸シロウトの学生たちが有機栽培で野菜を作っているんだって。しかも畑に立つのは、週に1回、90分の授業のときだけなんだって!
本当にそれで有機野菜が作れるの!? ということで、訪れたのは東京都多摩市の恵泉女学園大学。キャンパスに隣接した教育農場は、雑木林に囲まれた谷戸にありました。ときは夏真っ盛り。麦わら帽子の学生たちについていくと、目に飛び込んだ光景にびっくり!
一面草の緑で、畑とは思えなかったからです。
農場の中の小道を進むと、野菜の植わっている場所だけは枯れ草が敷いてあります。草にも土にもさまざまな虫がいて、草の間には花やハーブも育っています。多種多様な命があふれるなんとも賑やかな畑でした。
「先生、誘引って、これでいいの?」「茎を傷つけないように、ひもの結び方に気をつけてね」。その日の授業はキュウリの世話と収穫。学生たちは春に入学して初めて野菜作りをすることになった1年生です。園芸を教育の柱に据えたこの大学では、「生活園芸」の実習は全学年の必須科目なのです。「キュウリってこんなに大きくなるのに、なんでお店で売ってるのは小さいの?」「輸送しやすいように決まったサイズで収穫しているからよ」。学生たちの質問に答えているのは澤登早苗(さわのぼり・さなえ)先生。この農場を有機畑に変えた中心人物です。
■化学肥料も農薬も使う必要がなくなります
長年、化学肥料と農薬を使っていたこの畑を有機栽培に切り替えたのは、1994年の春でした。「当時の畑の土は、有機物がとても少なくてやせていました。水はけが悪いから、雨が降ればすぐにドロドロ、乾けばカチカチ。土には、やせた土地によく育つヨモギやスギナばかり生え、畑にはミミズもテントウムシも生き物がほとんどいなかったんですよ」。
澤登さんと当時の学生たちは、そんな土を変えようと奮闘しました。土の中に有機物を増やすため、農場の土手の草を刈って畑に入れ、近隣の植木屋さんからもらった剪定枝(せんていし)を入れ、落ち葉で腐葉土を作って入れました。そして、それまで抜いて捨てていた草は、積極的に生やして有機物として畑へ戻しました。土の中に有機物が増えると、それを食べる多様な生き物がすみつき、有機物を分解して植物にとって栄養豊かな土を作ります。さらに生き物が動き回ることで土は耕され、ミミズや微生物の働きによって細かい土からなる団子状の集まりが無数にできます。そのすき間には水分や空気が保たれ、植物が育ちやすい土になるのです。
「でも最初のころに作ったキュウリはひどかった。生育不良で弱っているから病害虫に負け、実をつける前に枯れてしまうものもありました。それでも根気よく土作りを続けるうちに、畑の様子が変わってきたんです。スギナやヨモギは減り、肥えた土に生えるハコベやホトケノザなどが増えてきました。キュウリもよいものがとれるようになったんですよ」
今では農場の土はフカフカで、握って開くとほろほろと崩れます。畑はこんなに変わったそうです。
◎土は、生き物や草の根が耕すので、常に軟らか。耕うんの必要なし。
◎水はけがよいので、雨水がたまらない。だから畝(うね)を立てる必要もなし。
◎元肥(もとごえ)だけで野菜が育つほど土が肥えているので、追肥は必要なし。
◎多様な生物がすみ、害虫や病原菌を食べる虫もいるので、農薬を使う必要もなし。
「有機栽培は、化学肥料と農薬を“使ってはいけない”野菜作りと思われていますが、本当は、化学肥料も農薬も“使う必要がない”野菜作りなんですよ」
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK趣味の園芸 やさいの時間』連載「週1から始めるオーガニック」2020年4・5月号より
- 『NHK趣味の園芸やさいの時間 2020年 04 月号 [雑誌]』
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