芝野虎丸名人の自戦解説

左/本木克弥八段、右/芝野虎丸名人 撮影:小松士郎
第67回 NHK杯 3回戦 第7局は、本木克弥(もとき・かつや)八段(黒)と芝野虎丸(しばの・とらまる)名人(白)の対局となった。芝野名人の解説を交えた芝野龍之介さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

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■芝野名人の自戦解説!

本木克弥八段と芝野虎丸名人。日本を代表する二人の若手の楽しみな顔合わせとなった一局。芝野は昨年、史上最年少名人、王座の二冠を獲得した、今日本で最も勢いのある棋士だ。対する本木も2017年、21歳で本因坊戦の挑戦者になったことのある実力者だ。
解説の河野臨九段が、「両者手どころがしっかりしていて力自慢。厳しい着手が多い」と評する二人。対戦成績は本木の3勝1敗。本木の3連勝後、直近の1局を芝野が勝っている。名人となった芝野にとっても、決して戦いやすい相手ではない。熱戦必至の一局を芝野の局後の感想を交えながら見ていこう。
「本木八段がよく使う布石」(芝野)の黒の二連星からスタートした。黒13では「黒Aから白Dと進行する変化もあるが、私が研究済みなことを知っていた本木さんは打ってきませんでした」と芝野。しかし実は研究が甘く「打たれたら自信はなかった」のだと言う。
白18は「柔らかい手」と河野九段。囲碁AIのアルファ碁ゼロも打っていた手だ。うまく説明するのが難しい一手だが、AIや強い棋士が打つと、「なるほど、こう打つものか」と納得させられる雰囲気のある一着だ。アルファ碁ゼロ関連の書籍も出している芝野にとってはなじみの手なのだろう。左下の早い三々入りから白14、黒15、白18と、河野九段が「AI流の進行」と解説する序盤となった。

 



■早くも白優勢に

続く黒19を本木は反省した。急所であり手厚い一着だが、近くの白が軽く打っているところで、これでは後れているとの判断だ。黒21にトブくらいだったかという本木に対し、芝野の考えは異なった。「黒19は落ち着いた一着。AIとも一致しているよい手」と評価し、続く2手に疑問を呈した。
「黒21では22と打たれるほうが嫌でした。実戦は白22と打つことができて安心しました」と芝野。黒23でも、「Aとトブくらいだった」と言う。実戦は「白26の下ツケがぴったり」で黒がしびれた。
27手目、本木は考慮時間を使い、左手の親指と人差し指であごを触りながら考え込む。1図の黒1から白4のように進行するのは、「黒だけ眼がなく、白がいい」との芝野の評で、黒がぱっとする図はなかなか見つからない。

 


 結局、本木は33手目まで4回の考慮時間を消費して手をひねり出した。まだ序盤であり、本木の苦慮がうかがえる消費ペースだ。白34まで、「黒は27からしかたがなくこの進行を選びましたが、黒地が小さく白が打ちやすい」と、芝野が早くも優勢を意識する展開となった。
ただ、この直後、芝野にも反省の一手が出る。「白38では2図の白1のほうが白は厚くてよかったです。左辺の黒は生きることができるかさえ怪しく、仮に生きても白悪くありません」と言う。実戦はこのあと、黒の粘りを許すことになる。2図は先に白が損をするため簡単に生きられてはまずく、芝野はちゅうちょしたようだが「少し怖かったですが、やるべきでした」と後悔していた。


続く白40のあと、黒41で「黒Bに打たれていたら白が困っていた」と言う。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2020年3月号より

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