“ギャンブルの借金を返すため”にピノッキオは誕生した
『ピノッキオの冒険』の作者カルロ・コッローディはイタリア統一を願う熱心な愛国者として、書店員や公国の書記官などを務めながら、批評や風刺などの文筆活動に勤しんでいました。1861年にイタリア王国が成立した後、コッローディが熱心に取り組んだのが、児童向けの教科書の執筆でした。そんなコッローディが『ピノッキオの冒険』の執筆に取り組み始めたのは、ある意外な理由からでした。イタリア文学研究者、東京外国語大学名誉教授の和田忠彦(わだ・ただひこ)さんが解説します。
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教科書の執筆に情熱を傾ける一方で、コッローディにはある大好きな遊びがありました。主にカード遊びによる賭け事です。それがどうしてもやめられずにいたのです。コッローディは、一方で国や教育の高邁な理想を掲げながら、他方では、現代で言うところのギャンブル依存症でした。その分裂した心情が、かれ自身の肉体にはぬぐいがたく根付いていたのです。
しかし、実はまさにそのことが、かれの名を今日にまで残すことになる『ピノッキオの冒険』という傑作児童文学を生みだしました。
いきさつは次のようなものです。コッローディは、膨らんでしまったギャンブルの借金を何とか手っ取り早く返したいと思っていました。しかし、熱心に書いていた教科書や、風刺・時評といったものでは稿料が稼げない。そこで、イタリア初となる子ども向け雑誌の創刊を企画していた出版社から童話の連載依頼があった際、「稿料がよければ書いてもいい」と返信。すると先方は稿料をはずんであげようと言う。だったら書こうというわけで書き始めたのが、『あるあやつり人形の物語』、のちの単行本タイトル『ピノッキオの冒険』だったのです。
さらに、少し先走って話をしてしまうと、この連載の稿料が思いのほかよかったおかげで、十数回連載したところでコッローディは借金を返し終えてしまいました。そこで、「さて、いつ止めようか」と思案しはじめる。そして、「ではこのあたりで」といったかたちで用意したのが、前回紹介した、樫の木に首を括られてピノッキオが死ぬという結末でした。これには読者たちから抗議が殺到し、その後連載は再開されたというエピソードも先にご紹介した通りです。
『ピノッキオの冒険』が生まれたのは、言ってみれば偶然でした。いまから見れば笑い話ですらあるような、身を持ち崩したがゆえの偶然が、このいたずらっ子を主人公とした名作の誕生、そして完成までに至る運命を用意していた。この事実は、もしかすると、これから読んでいく破天荒な物語との関係において示唆的なことかもしれません。
■『NHK100分de名著 ピノッキオの冒険』より
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教科書の執筆に情熱を傾ける一方で、コッローディにはある大好きな遊びがありました。主にカード遊びによる賭け事です。それがどうしてもやめられずにいたのです。コッローディは、一方で国や教育の高邁な理想を掲げながら、他方では、現代で言うところのギャンブル依存症でした。その分裂した心情が、かれ自身の肉体にはぬぐいがたく根付いていたのです。
しかし、実はまさにそのことが、かれの名を今日にまで残すことになる『ピノッキオの冒険』という傑作児童文学を生みだしました。
いきさつは次のようなものです。コッローディは、膨らんでしまったギャンブルの借金を何とか手っ取り早く返したいと思っていました。しかし、熱心に書いていた教科書や、風刺・時評といったものでは稿料が稼げない。そこで、イタリア初となる子ども向け雑誌の創刊を企画していた出版社から童話の連載依頼があった際、「稿料がよければ書いてもいい」と返信。すると先方は稿料をはずんであげようと言う。だったら書こうというわけで書き始めたのが、『あるあやつり人形の物語』、のちの単行本タイトル『ピノッキオの冒険』だったのです。
さらに、少し先走って話をしてしまうと、この連載の稿料が思いのほかよかったおかげで、十数回連載したところでコッローディは借金を返し終えてしまいました。そこで、「さて、いつ止めようか」と思案しはじめる。そして、「ではこのあたりで」といったかたちで用意したのが、前回紹介した、樫の木に首を括られてピノッキオが死ぬという結末でした。これには読者たちから抗議が殺到し、その後連載は再開されたというエピソードも先にご紹介した通りです。
『ピノッキオの冒険』が生まれたのは、言ってみれば偶然でした。いまから見れば笑い話ですらあるような、身を持ち崩したがゆえの偶然が、このいたずらっ子を主人公とした名作の誕生、そして完成までに至る運命を用意していた。この事実は、もしかすると、これから読んでいく破天荒な物語との関係において示唆的なことかもしれません。
■『NHK100分de名著 ピノッキオの冒険』より
- 『コッローディ『ピノッキオの冒険』 2020年4月 (NHK100分de名著)』
- 和田 忠彦
- NHK出版
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