お茶の心を表す「和敬清寂」とは

裏千家の表門である兜門(重要文化財)は簡素ながらも威厳のあるたたずまい 撮影:竹前 朗
日本の伝統文化を代表する、茶道。千利休から四百数十年にわたってその流れを受け継ぐ裏千家の茶室と茶道の歴史をたどってみましょう。

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■お茶の心を受け継ぐ裏千家

現代にまで受け継がれる茶道を大成した千利休(1522〜1591)。利休の唱えた「和敬清寂(わけいせいじゃく)」は、お茶の心を表す言葉として広く知られています。この言葉には「誰とでも仲よく、すべてにおいて調和を大事にし、お互いを尊重し合い、何事も心から清らかであること、それによって穏やかでどんなときにも動じない心にいたる」といった意味があります。和敬清寂によって心を通わすお茶が実現するともいえるでしょう。
千利休から四百数十年続く裏千家は、和敬清寂というお茶の心と伝統を継承し、茶道の普及、発展を進めてきました。

■兜門(かぶともん)と露地(ろじ)

裏千家は京都市上京区の小川通(おがわどおり)にあります。小川通に面して建つのが裏千家の象徴ともいえる表門、兜門です。檜皮葺(ひわだぶき)の屋根、竹樋(たけとい)のたたずまいなど、侘びた風情の中に重厚な存在感があります。
兜門という名前は内側の軒端(のきば)中央を半円形に切り込んだ槍(やり)返しのあることが錣(しころ/兜の鉢の左右から後方に垂れて首を覆うもの)を附した兜に似ていることに由来します。
門をくぐると打水がほどこされ、植栽の緑もみずみずしい露地。霰(あられ)こぼしの石畳が、斜め右にゆるやかな弧を描きながら奥へと誘います。ゆっくりと露地を進むうちにすがすがしく、おだやかな気持ちになります。
その先には大玄関があります。間口は広く、簡素な檜皮葺の庇(ひさし)や、黒い竹すのこの上がり框(がまち)と白い障子のコントラストが落ち着いた雰囲気を醸し出しています。茶道の実践の場にふさわしい玄関です。

■裏千家の代名詞、今日庵(こんにちあん)

裏千家の代名詞ともなっている今日庵は、一畳台目(いちじょうだいめ)という、二畳に満たない極限の侘(わ)びた茶室で、床(とこ)も壁面で代用しています。今日庵という名称については有名な逸話があります。
千利休の孫である三代元伯宗旦(げんぱくそうたん)は正保三年(1646)、利休が営んだ茶室である不審菴(ふしんあん)を三男の江岑宗左(こうしんそうさ)に譲り、自身は隠居所として新しく茶室を建てました。その席披(せきびら)きの日、参禅の師である大徳寺の清巌(せいがん)和尚を招きましたが、時刻を過ぎても和尚は現れず、宗旦は「明日おいでください」という伝言を残して他の用事のため外出します。
宗旦の留守中に訪れた和尚は、茶室の腰張りに「懈怠比丘不期明日(けたいのびくみょうにちをきせず)」と書き残して帰りました。『怠け者の僧侶である私は明日と言われてもお約束しかねます』という意味です。これを見た宗旦は自分の非礼を反省し、清巌和尚の言葉にちなんで茶室を今日庵と名付けたといわれています。
今日庵からも望める銀杏(いちょう)の大木は宗旦銀杏です。宗旦が植えたと伝えられ、裏千家の象徴的存在となっています。
※続きはテキストでご覧ください。
■『NHK趣味どきっ!茶の湯 裏千家 心通わすお茶』より

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