中村太地七段、高校1年生で思い知らされた三段リーグの怖さ

撮影:小松士郎
将棋フォーカスで「太地隊長の角換わりツアー」の講師を務める中村太地(なかむら・たいち)七段。テキストに好評連載中のコラム「太地のオフサイド・トラップ」では、奨励会時代について振り返りました。

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奨励会入会後は、誰もが早く棋士になって活躍することを夢見ています。しかし現実はそう甘くありません。互いに星を潰し合い、上がることもなければ落ちることもない成績が続くと、奨励会が抜けるものではなく、ただの日常になっていくような感覚があります。6級の入会からプロ四段になる道のりは長く、高い志を持ち続けるのは容易ではないです。
自分を支えてくれたのは同世代を中心にしたライバルの存在で、少し年上の広瀬章人竜王らの層が厚く、よい刺激になりました。また、早く奨励会を抜けることは一流棋士で活躍するバロメーターとして、意識することが多かったです。
当時、奨励会の例会は平日に行われることが多く、学校を休んだときは友達にノートを借りて助けてもらいました。授業をしっかり聞くように心がけたのは復習する時間を少しでも減らすためです。当時の奨励会員は高校にいかない人が1割強はいて、自分としては将棋以外のことをやっている後ろめたさもありました。
それでも、将棋に向き合う姿勢には波があったと思います。月に1回、師匠に奨励会の棋譜を見せただけで「生活がたるんでいるんじゃないか」といわれ、何かを見透かされていた気がしました。高校1年生の春に初参加した三段リーグは、指し分けでした。同い年の佐藤天彦さんが2回目の次点を獲得しながらも、フリークラス編入の権利を行使しなかったのは驚きました。2期目は9連勝スタートから3連敗で失速し、三段リーグの怖さを思い知ります。4期目に昇段できた勝因は、自分でもよく分かっていません。着実に力が伸びたからだと思いますが、頑張っても一歩一歩しか進めなかったというのが正直なところです。5年半で抜けたとはいえ、奨励会は恐怖でした。その中で切磋琢磨(せっさたくま)した人たちは、どんなに過ごした時間が長くても、仲のよい友達というより、過酷な日々を共に乗り越えてきた戦友という感じがします。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』連載「太地のオフサイド・トラップ」2020年1月号より

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