強敵と相まみえハッシーの秘策が発動! 

左/斎藤慎太郎王座、右/橋本崇載八段 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯2回戦第7局は、斎藤慎太郎(さいとう・しんたろう)王座と橋本崇載(はしもと・たかのり)八段の対局となった。大川慎太郎さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

 



* * *


■秘策発動

最初はニヤリとさせられたのだ。「僕が(斎藤に)勝っているのはルックスくらいです」と橋本が真面目な顔で事前インタビューに答えたときである。
だが次の発言には大げさでなく驚かされた。「強敵相手ということで秘策を用意してきました」と高らかに宣言したのだ。相変わらずサービス精神が旺盛な男である。対戦相手のインタビューの内容はわからないとはいえ、視聴者にアピールしているのだから、自分に重圧をかけているようなものだ。それよりは「楽しんでほしい」という気持ちがまさるのだろう。実際、私はそれで前のめりになったのだから効果は十分だ。5三銀型の三間飛車。これが橋本の秘策だった。4三銀型の実戦例は多く、橋本も去年のNHK杯で指しているので斎藤も頭にあったが、「5三銀型は想定していなかった」意表を突くという意味では成功したが、それだけで勝てるほど甘くはない。相穴熊模様になり、橋本は△6四銀と出た。5三銀型はこの銀を攻防に使えるのが魅力だ。けれど橋本は次の手に意表を突かれた。


■外れた想定

「そうかー」終局後、スタジオに橋本のため息が響いた。「▲6六歩で想定外になりました。▲6六銀のほうがふつうで、それをかなり先まで考えていたんですけど」。確かに「銀には銀」で対抗させたほうが玉を固めやすいが、斎藤はさっと歩を伸ばした。
「(▲6六銀は) 5八の金とのバランスがよくないので」と斎藤が局後に語ると、橋本も「そうそう」とうなずいた。将来、角を6八に引いたときに5八の金が孤立しがちなのだ。
「▲5八金右(1図)としたら、▲6六歩と突くと決めていた」と斎藤は後日に明かした。ではどういう意図で金を上がったのか。ほかにも手はありそうだが。
「▲7八玉は袖飛車にされた時に玉が近い。▲5六歩もありますが、相居飛車戦になった際に急戦に出にくい。▲5八金右なら居飛車、振り飛車の両方に対応しやすいので」と語った。橋本が「受けの強いオールラウンダー」(斎藤) なので金を上がった意味が強いのだ。「風が吹けば桶屋(おけや)が儲(もう)かる」ではないが、▲6六歩は橋本が自ら招いた可能性もあるところが面白い。

ただ▲5八金右の着手が早かったことは気になった。これにも理由があり、「NHK杯では序盤で悩みすぎない」というテーマに沿った一着だった。斎藤は序盤でじっくり考えて構想を練るのを好むが、早指し戦でその時間はない。だから「決断よく指した」と斎藤は言う。
3図からの▲6五歩で本格的に駒がぶつかった。4図で斎藤に巧みな手筋が出る。

 



※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書は放送時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年12月号より

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