趙治勲名誉名人は「美談」をどう受け止める?

トラ(芝野虎丸)がやりましたね。張栩さんから名人を奪取。史上初の10代名人(19歳11か月)誕生だそうです。
彼とは3局かな、対戦したのは。初めて対局したとき、碁はもちろん強いと思ったんだけど、すごくいい印象を持ちました。碁に向き合う姿勢がすばらしいんですよ。普通、手合いで負かされるとぼくは相手のことが大嫌いになります。なんだこいつ、バカヤローってね(笑)。トラには3連敗しても不思議と穏やかでいられた。井山(裕太棋聖)と張栩(前名人)もそうだったなあ。
碁と同化して、純粋に、一生懸命にただただ碁を打っている。勝ち負けを超越している雰囲気もある。はるかに年下だけど虎丸名人は尊敬できる棋士です。
さて、今回は気になったニュースを取り上げます。あるコンビニエンスストアの入り口にツバメが巣を作りました。気付いた店長は「無事に巣立ってほしい」と願い、そのままにした。もちろん、お客さんに不快な思いをさせないように配慮してね。それが話題となり、「いい話」としてネット上に広まりました。
皆さんはどう思いますか? 近年、癒やされるってことをなぜかみんなが求めています。確かに、店長や文句を言わないお客さんは優しい。それは認めます。でも、カラスの巣だったらどう? 大きくて真っ黒なカラスだとしても、同じように見守ってくれるのでしょうか。
人間の世界に置き換えてみます。きれいな女性もしくはイケメン君と、美人じゃない女性またはブサ男君が、同じ失敗をしたとします。このとき、叱る側は公平でしょうか。男だったら、きれいな女性には甘くなる可能性が高い。女性だったら、イケメン君には優しい口調で済ましてしまうかもしれない。何を言いたいかと言うと、コンビニの出来事は差別の一端なんじゃないかってことです。
ぼくは自分をイケメンと思いたいけれど、どうもそうじゃないらしいと気付いています。ツバメじゃなくて、カラスの側に近い。あっ、いま読んでいるそこのあなた! まさか笑ってはいないでしょうね? 世の中に美人と美男はかなり少ない。あなたが美人、もしくは美男である可能性は限りなく低いんですよ(笑)。じゃあ、我々カラスに近い人間はどうやって生きていけばいいのか。
きれいか、きれいじゃないか。気にするのは人間界だけです。見かけだけじゃなく、こういう「いい話」にしてもそう。美談っていうの? これも本質的に、ぼくは疑いたくなります。
※続きはテキストでお楽しみください。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』連載「趙治勲名誉名人のどうでもいい碁の話」2019年12月号より

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