中村太地七段が真剣勝負の醍醐味を覚えた八王子将棋クラブ

撮影:小松士郎
将棋フォーカスで「太地隊長の角換わりツアー」の講師を務める中村太地(なかむら・たいち)七段。テキストに好評連載中のコラム「太地のオフサイド・トラップ」では、多くの棋士を輩出した八王子将棋クラブの思い出を綴ってくれました。

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仙台市から東京都府中市に引っ越し、小学校2年生の新学期が始まりました。いろいろな将棋道場にいき、ホームグラウンドになったのが「八王子将棋クラブ」です。自宅から近い、禁煙、羽生善治NHK杯の出身道場ということに加えて、同世代の子どもが多く、居心地のよい空間で刺激をもらえたのが決め手でした。
仙台のカルチャーセンターでは、授業で教わり、生徒同士で楽しく将棋を指していました。八王子将棋クラブでは強い大人が全力で負かしに来ますし、どんどん強くなる同世代のライバルが目標になります。道場内の大会で結果を残せば賞品をもらえ、席主の八木下征男さんが週刊の「八将タイムス」で取り上げてくれるので、真剣勝負の醍醐味(だいごみ)と勝つ喜びが身体に染みついていきました。
切磋琢磨(せっさたくま)できる環境のおかげで、学年が上がるごとに段位もひとつずつ上がっていき、小学2年生でアマ二段だった棋力は、小学校5年生で五段になります。周りの棋士は夏休みだけで一気に何段も上がるタイプが多く、自分のようにコンスタントに昇段したのは珍しいようです。
出場した大会で印象に残っているのは、NHKでも放送された小学生名人戦の決勝。緊張したまま迎えた大一番は、学年がひとつ下で5年生の都成竜馬現五段に負かされてしまいました。収録後に涙が止まらず、解説の鈴木大介九段に「これからが本番だから」と慰めてもらったのを覚えています。この悔しさが、棋士を目指す大きなきっかけになりました。
昨年のクリスマスイブ、八王子将棋クラブは41年の歴史に幕を下ろしました。今年2月には、自分と同世代の棋士たち、羽生NHK杯や阿久津主税八段など世代を超えて道場に通った人々が集まり、八木下夫妻の慰労会をさせていただきました。昔話に花が咲き、八木下夫妻の克明な記憶に触れるほど、お二人の愛情の深さときめ細やかな配慮が伝わってきて、感謝の気持ちでいっぱいです。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年12月号より

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