ナイツ・塙が漫才を徹底分析!M-1の必勝法とは?なぜあのコンビは面白い?

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)
『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)』
塙 宣之
集英社
886円(税込)
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 2019年もおおいに盛り上がりを見せた『M-1グランプリ』。ほぼ無名であったミルクボーイが王者となりましたが、この結果を導き出したのが総勢7名から成る審査員です。

 2018年に続き、その中のひとりを務めたのが、お笑いコンビ「ナイツ」の塙 宣之さん。ナイツ自体も過去に何度かM-1には出場していますが、実はその舞台では一度も「ウケた」という感触を得たことがないといいます。そんな塙さんが「青春時代、恋焦がれたM-1に振られた男が腹いせで本を書いている」というような気持ちで取り組んだのが本書。ここにはM-1に対する並々ならぬ熱い思いが詰まっており、トークバラエティ番組『アメトーーク!』などでも垣間見える塙さんの分析力や観察眼とも相まって、珠玉の一冊に仕上がっています。

 全部で90の漫才に関する質問と、それに対する塙さんの回答から成り立っている本書。「M-1は『しゃべくり漫才』が強いという印象があります」「塙さんの中の審査基準を教えてください」といったM-1に関するものから、「漫才で人間味を出すという言い方をしますが、どう出せばいいのですか?」「下ネタもそうですが毒も扱いが難しいですよね」など漫才の技術的な部分に関するもの、「爆笑問題がM-1に出ていたら......」「ジャルジャル『ぴんぽんぱん』はどう評価しましたか?」といった他の芸人に関するもの、そして「ヤホー漫才誕生前夜。聞いているだけで、ワクワクします」といったナイツの漫才に関するものまで。お笑い好きな人であれば、これらの質問を見ているだけでも興味をそそられ、塙さんの回答を知りたくなるのではないでしょうか?

 そして、塙さんの分析がまた論理的で的確。たとえば、2018年のM-1の舞台で自分の容姿を卑下する漫才をおこなった「ギャロップ」を審査員の上沼恵美子さんがこき下ろしましたが、同じく自虐ネタを披露した「ミキ」は絶賛したことから、当時「えこひいきではないか」と一部で議論を呼んだことがありました。本書で塙さんは「上沼さんは、(ギャロップの)発想が安易だと言いたかったのだと思います」とし、「15年ぐらいのキャリアを積んだ芸人が陥りがちな罠」と指摘。知名度もそこそこありファンもいるので、ふだんはそのアドバンテージで笑ってもらえるが、M-1の舞台はそれでは通用しないというのです。いっぽうの「ミキ」については、たしかにネタはベタではあるとしながらも、彼らのほれぼれするような天然のしゃべくり漫才は、ネタどうこうがむなしくなってくるほどモンスター級に「突き抜けている」と評します。そしてもうひと組、2015年のM-1王者「トレンディエンジェル」もハゲネタをウリにしているコンビ。ですが、彼らの人間性やスキルのおかげでハゲネタが不思議と自虐になっていないと分析。同じ「ハゲ」や「モテない」ネタでもどこに評価の違いが出てくるのか、わかりやすく論じられていることと思います。

 現役のプロ漫才師による、明快で論理的な漫才読本。ありそうでなかなか類のない稀有な一冊として、本書は今後もお笑い好きや漫才師志望の人たちの間では読み継がれていくことになるかもしれません。

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