藤井聡太七段、NHK杯戦で千日手に

左/久保利明九段、右/藤井聡太七段 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯2回戦第2局に登場したのは久保利明(くぼ・としあき)九段と藤井聡太(ふじい・そうた)七段。椎名龍一さんの観戦記より、序盤の展開を紹介する。



* * *


■千日手指し直し局

対局開始前の控え室で、藤井は静かに待っていた。対局前の集中力を高めているという静かさではなく、ただぼんやりしている静かさだった。大きなあくびを2つしたので、疲れているのかもしれないなと思う。デビューから信じられないような高勝率を誇る藤井の対局が増えてしまうのは必然で週に2局は当たり前。対局のたびに大阪か東京へ移動して公式戦を指しこなす日々が続く。私には想像もつかないがアイドル並みに忙しい高校2年生であることは確かだ。
藤井の先手で始まった将棋は千日手になった。後手番の久保が立石流振り飛車の作戦から、先手の藤井に仕掛ける手を与えずに千日手やむなしの局面にうまく誘導したものだった。
先後を入れ替えての指し直し局は千日手成立後20分ほどで始まった。持ち時間は前局の残り時間をそのまま引き継ぎ、久保は2分、藤井は0分で初手から30秒将棋だ。ただし1分単位で10回使える考慮時間は両者ともすべて残している。久保は指し直し局も立石流の作戦を採った。今日は先後どちらを持っても立石流の予定だったのだろう。


■最善形を崩す手待ち

対局前に「最近も走っているんですか」と久保に尋ねられた。以前はダイエットのためによく走っていたのだが、最近は億劫(おっくう)でもう半年ほど走っていないことを告げ「久保さんは?」と尋ね返すと「月に30キロくらい走っています」という答えが返ってきた。ムムム、と久保のズボンのベルトをチェックすると、穴が足りないくらいまでキュッと締められていて、そろそろベルトの長さ調整をしなければならないくらいに痩せているのが一目瞭然であった。
数年前まで、久保とは何度かゴルフに行ったことがあり、ゴルフ場の風呂で「久保さんのお腹は育ってきているな~♪」と他人の中年腹不幸をクスクスと喜んでいたこともあったが、いっぺんに形勢逆転。自分が喜ばれる形勢に陥ってしまった。
2図は藤井が△9二香と手待ちしたところだが、後手に有効な手待ちなしと見た久保はここから▲7九金~▲7八金と形を崩さずにパスして後手に手を指させたのである。▲7九金に後手が金や玉を動かして玉形を乱して待とうとすれば▲7四歩の仕掛けや角打ちの隙が生じる。本譜は馬を作って先手が技ありを取った格好だ。1筋に嫌味をつけた藤井は3図から△8六歩の勝負手を放つ。

「△8七歩成が間に合うとは思えませんけどね」と解説の杉本昌隆八段。久保も「この手が間に合うのかと思いましたが、こちらが少しでも間違えると難しくなりますし、こういう局面でふわっとした手を指せるのは強者の証しだと思います」と語った。

※投了までの棋譜と観戦記、千日手局の解説はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年10月号より

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