ベテランvs.初出場 40歳差の激闘

左/苑田勇一九段 、右/富士田明彦七段 撮影:小松士郎
第67回 NHK杯 1回戦 第5局は、大ベテランの苑田勇一(そのだ・ゆういち)九段と、初出場の富士田明彦(ふじた・あきひこ)七段の対局となった。松浦孝仁さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

* * *


■大ベテランと初出場の対決

頭の中で以下の場面を想像してほしい。
「星の黒に白は小ゲイマガカリ。黒、一間に受けて、白は隅に向かって二線へのスベリ。黒は三々に受けて、白は辺へ二間ビラキ」
AIが全く打たないことで人気がちょう落した定石だ。絶滅したとの声もある。
また聞きで申し訳ないのだが、苑田勇一九段は猫もしゃくしもこの有名定石を用いていた中で、「いずれ打たれなくなるでしょう」と予言していたという。AIと同様の見解によるものかは定かではないが、見事的中だ。西の宇宙流と呼ばれ、東の宇宙流、武宮正樹九段とは一味違う中央感覚のように私は思う。
この碁の見どころは、序盤早々に現れる苑田の趣向だ。特に模様や厚みを求めたのではなく、厳しく相手をたたくことを目的とした、かなり思い切った手法に見える。皆さんの目にはどのように映るだろう。
対するは、NHK杯初出場の富士田明彦七段。67歳のベテランの仕掛けに、27歳の若者らしく気合いで返した。その場面は本局のハイライトと言っていい。闘志あふれる着手と中性的で柔和な表情のギャップに魅せられる読者がいるかもしれない。
そうそう、解説の片岡聡九段は対局開始前、「布石がどうなるかが楽しみ」と話していた。こちらの予言も見事的中だ。


■両者、二連星の布陣 苑田、研究済みの戦術か?

黒1から白4まで、すべて星だ。以前は二連星に構えたら、ある程度は勢力や厚み、中央を意識した石運びが常識だった。今は違う。黒5のカカリ一本から黒7だ。星からのシマリは三々入りが残り、地に甘いとの理由でほとんど用いられなかった。「とはいえ、昔の布石が悪いわけではありません」と片岡九段。
白8のカカリに手を抜くのは現在のトレンド。左上黒9から11と三々に入るのは星の数ほど打たれているが、この定石の締めくくりが大きく変化した。白18のハイだ。
人類が長い間信じて疑わなかったのは、1図の白1ツギだ。△(黒)が白1によって裂かれ形になっている、そんな説明にはかなりの説得力があった。しかしAIは黒aのオサエ込みが残るのをマイナスと計算したらしい。

 


 富士田は右上白20の両ガカリへ。黒21、23のツケノビに続いて、2図の白1から黒10の定石は完全に廃れた。3図白1には黒2から12が流行中だ。




昔から打たれている白24のノビ込みから面白い変化になる。対する黒25が苑田自慢の一手か? 白26には黒27 だ。白28に黒29が省けず形を崩されたように思えるが、黒33となれば白もうかうかしていられない。「見たことがない形です」と片岡九段。
黒の形に節を付けようとする白34に黒35、37の捨て石が好タイミング。白40の切りに黒41から43とツイで富士田の出方をうかがう。白44と右辺の一団を補強したのを確認して、苑田は刀を抜いた。
黒45からアテたのが激しい。そして白46の一手に黒47、49だ。続いて4図の白1には、ご覧のように気持ちのいいシボリが成立する。富士田、どうする?

※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年7月号より

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