日本に本場の味を広め技を守り継ぐフランスパン

窯から出した瞬間にピチピチ、パチパチという音がするフランスパン。老舗と呼ばれる今でも、味や製法は進化させつつ、職人がいちからつくる姿勢は変わらない。撮影:三村健二
本物をつくりたいという思いから始まった日本のフランスパン。今も常に生地の状態を見て、職人が手作業でつくり続けています。パン愛好家のひのようこさんが選ぶ、フランスパンの老舗を訪ねました。

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昭和40年(1965)、東京オリンピックの翌年、兵庫県神戸市・三宮町の老舗パン店の店頭に、黄金色のフランスパンが並びます。日本に本場のフランスパンを紹介し“フランスパンの神様”と称されるレイモン・カルヴェル氏、その弟子フィリップ・ビゴ氏の指導のもとにつくられた、本格的なフランスパンでした。まだパリッとしたパンの皮になじみがなかった時代「堅くて口の中が傷ついた」、「このパンは蒸して食べるの?」と苦情が寄せられたといいます。とにかく本当のフランスパンを知ってもらおうと、無料で配ったことも……。それにもめげず次の年には、東京に出店。するとフランス滞在経験者や在京フランス人から「本物のフランスパンがやってきた」と評判を呼び、あっという間に口コミで大ブレイク。職人は寝る暇もないほどで、うれしい悲鳴を上げることとなったのです。
その後も本物のフランスパンへの追求は続き、フランス製石窯オーブンの導入、日本の製粉会社とともにフランスパン専用粉の開発、パンの膨らみや風味などに影響するイーストをフランスから輸入するための商社を起こすなど、日本のフランスパン業界をけん引。日本にフランスパンを定着、発展させた草分けとして、大きな功績を果たします。
“王道”とされるフランスパン。技術指導を行っている佐藤広樹さんに伺うと、その製法は「本場のパンづくりの基本に忠実であること」だといいます。小麦粉、イースト(パン酵母)、塩、水。4つの基本材料をベースに、水分の多めな生地をあまりこねずに、低温で長時間発酵させ、粉のうまみをじっくりと引き出すこと。高温で焼き上げることで生地をのばし、ボリュームを出すなど、すべてがしっかりと守られてつくられます。また職人が粉から生地を仕込み、焼き上げるまでの工程を行う“スクラッチ製法“で提供するのも、大事にしているこだわりのひとつです。
よいフランスパンの決め手は、外皮(クラスト) は黄金色に焼かれ、押すとパリパリと音がし、カリカリとした食感であること。中身(クラム) はクリームホワイト色で、大中小の気泡が分散したもの。クープと呼ばれる表面の切り目がくっきりとしていること。「この理想的なフランスパンを目指す姿勢は、初めて本格的なフランスパンを売り出してから半世紀以上を経た今でも変わりません」と佐藤さん。永く王道のフランスパンを守り続ける技術と、本物を求める情熱は、今もしっかりと引き継がれていました。
■『NHK趣味どきっ! もっと知りたい! つくりたい! パンのある幸せ』より

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