井山のAI流、羽根のこだわり

左/井山裕太 NHK杯、右/羽根直樹九段 撮影:小松士郎
第66回 NHK杯戦も準々決勝。今回は第2局の井山裕太NHK杯(黒)と羽根直樹九段(白)戦の序盤の展開を、丹野憲一さんの観戦記から紹介する。

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■井山のAI流 羽根のこだわり

対局前の控え室は、4月から棋士になる仲邑菫(なかむら・すみれ)さんの話題で持ちきりだった。
彼女の成長はまさに日進月歩で、4月のデビュー戦の相手が誰になるのか、関西の棋士たちは戦々恐々としているというのが、もっぱらのうわさだ。井山裕太NHK杯や羽根直樹九段とNHK杯で戦う日が訪れるのは、ほんの2、3年先かもしれない。
仲邑さんと1月、早々に記念対局を定先で戦った井山。対局を振り返って「途中、ずっと白がよくないと思っていました。互先でもいい勝負の場面もありました」と、その強さを認めていた。
その記念対局にも現れたように、AI流の打ち方が今や主流とも言える中、羽根はかたくなに自分からはAI流布石を打とうとはしない。2回戦、3回戦ともに、今では懐かしいとも言える「小目からの小ゲイマジマリ」を打ち、最新の打ち方はどこ吹く風とばかりに勝ち抜いてきた。
一方の井山は「ダイレクト三々」など、最先端のAI流を駆使して準々決勝まで駒を進めてきた。
両者の対戦成績は井山の14勝10敗と、それほど差はない。しかし、井山が羽根から碁聖を奪い、羽根が無冠となった2012年以降は、井山が10勝2敗と大きく勝ち越している。そして昨年の準々決勝でも井山は羽根を破り、その勢いのまま連覇を成し遂げた。羽根はタイトル挑戦には届いていないが、各棋戦で好調を維持している。このあたりで何とか、井山に一矢報いたいところだ。


■AI流から築いた黒模様に、羽根が深々と打ち込む

仕掛ける棋風の井山に対し、じっくり持久戦に持ち込むタイプの羽根。序盤から両者の特徴がよく表れた進行になる。
黒5のカカリに手抜きして放たれた白6。3戦連続となる羽根の小ゲイマジマリからは、AI流に惑わされず我が道を行くという強い信念がうかがえる。
解説の村川大介八段は、本誌の今月号より別冊付録で「AI流はこわくない」を連載している。村川八段が「羽根九段の打ち方は、AI流対策のお手本となりますので、参考にしてください」と言うとおり、本局は井山のAI流布石に対し、羽根が従来の打ち方で対抗するという展開となった。
黒7のカケからがAI流だ。黒15に白はAのハネではなく白16とじっくりノビ、井山の勢力対羽根の実利という構図が固まった。
白18のカカリに対し、ほとんどの方はBなどの受けやCなどのハサミに目がいくであろう。しかし村川八段が「間違いなくツケノビます」と断言したとおり、井山は黒19、21とツケノビた。19路を打ち始めたばかりの方が打ちそうな手だが、これもAIによって見直された打ち方だ。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年4月号より

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