「永世名人」って何?

左/森内俊之九段、右/谷川浩司九段 撮影:河井邦彦
『NHK将棋講座』2019年2月号には、森内俊之(もりうち・としゆき)九段と谷川浩司(たにがわ・こうじ)九段の対局を羽生善治(はぶ・よしはる)竜王が解説した第68回NHK杯戦3回戦第1局の観戦記を掲載しています。3人の永世名人資格者が一堂に会した豪華な一局を、観戦記者の後藤元気さんが振り返ります。

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今月号の目玉は、やはりNHK杯戦の▲森内俊之九段―△谷川浩司九段戦だと思います。
十七世名人資格者の谷川九段と十八世名人資格者の森内九段の一戦を、十九世名人資格者の羽生善治竜王が解説するなんて、こんなぜいたくなことはめったにありません。
出だしが▲7六歩△8四歩▲6八銀の出だしだったので、きっとガッチリと組んで戦う往年の相矢倉を期待した人もいたことでしょう。
かくいう自分もそのクチでしたが、実戦は早めに△7四歩と突く、最近流行の急戦調の矢倉に進んでいきます。大御所のお二人も常に将棋を変えていく。そんな当たり前のことを、改めてしみじみと感じ入りました。
と、ここまで書いてきたところで、ふと「将棋界には専門用語が多い」と気づきました。盤上、盤外、大筋は分かっているつもりでも細部までは把握していなかったり、うっかり勘違いをしてしまっていたり……。
例えば、「永世名人」。
名人は現在ある8つのタイトルのひとつです。では永世名人と名人にはどのような違いがあるのか。十七、十八、十九世がいて、十六世や二十世はどうなっているのか。そもそも、どうすれば永世名人になれるのか。
読者の方々の中には「そんなことは知っているよ」という人もいれば、「実はそのあたり、よく分かっていなかったのよね」という人もいるでしょう。もしかしたら「名人って、羽生さんの名前じゃないの?」なんて人もいるかもしれませんね。
何を知っていて何を知らないかなんてそれぞれで、すべてを知っている人などいるわけがありません。
だからこそ、こういったテキストも、どこに向いて作っていくかが悩ましい。棋力も知識も興味の対象も読者それぞれですから、全部がバッチリ合う正解なんてあるわけがない。それが実現できるのは、自分で自分のためだけに作る同人誌くらいです。
みなさんからのおたよりは、今後の方向性を考えるうえでもとても重要なヒントになります。なんとなく気になっている将棋用語、NHK杯戦の疑問、その他将棋界についての疑問などを送ってもらえたら、できるだけ誌面を割いて対応していきたいと思います。
ちなみに「永世名人」とは、名人を通算5期獲得した棋士に与えられる称号のことです。
名人位は一世の初代大橋宗桂から十三世の関根金次郎までが終身制。以降は名人戦で勝った者が名人となる実力制に移行し、十四世の木村義雄、十五世の大山康晴、十六世の中原誠と続きました。
永世名人の称号は、基本的に引退後に名乗ることになっています。谷川、森内、羽生の三者は現役なので、称号資格保持者という表現のしかたになるわけです。
今のところ二十世名人の資格に最も近いのは、3期連続で保持している佐藤天彦名人。このまま永世称号に向かって突き進むのか、それとも新たな勢力が台頭するのか。年長者の巻き返しも十分に考えられそうです。3年後の予想すら難しい、実にスリリングな状況が続いています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年2月号より

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