矢代久美子六段の「決意の一手」

撮影:小松士郎
飾らぬ知的な華の持ち主、元女流本因坊の矢代久美子六段は、台頭する若手たちの活躍を素直に喜び「ファンのよう」と笑います。今回は、最近の一局から、「怒られそうな面白い」一手を語っていただきました。

* * *

「あれが最後…では寂しいな」
2005年ですから、かなり昔のことなのですが(笑)、女流本因坊を取ったときは、同世代の小林泉美さんや、知念かおりさんが活躍されていて、「自分もタイトルを」という気持ちが強かったのでとてもうれしかったです。それまで応援してくれた方たちに恩返しができて肩の荷が下りた感じもありました。
2年後に謝依旻さんの挑戦を受けたときは、当時から謝さんはとても強かったので大変な戦いになるだろうなと思っていたのですが、実際0-3というスコアで負けてしまったのがちょっとつらかったですね。ただ、タイトルを持っている間に「まだまだこんなに弱いのにタイトルを持っていていいのかな」という気持ちも生まれてきて、苦しかったので、逆に楽になったところもありました。今は本当にすごく才能があって強い方が出てきて、自分が対戦するときは当然勝ちたいと思うんですけれども、彼女たちが男性棋士に勝ったりするのを見ていてうれしいので、もっともっと頑張って女流棋士界を盛り上げてほしいなという…一ファンみたいなコメントになってしまうんですけど(笑)…そういう気持ちもあったりします。
私自身は、謝さんに敗れて以来、「あれが最後のタイトル戦になったら寂しいな」という思いはずっとあったのですが、なかなか結果が出せませんでした。女流名人戦の挑戦者になったときは、タイトル戦に十年以上縁がなかったので、自分でもビックリと言いますか、ふわふわしていました(笑)。
今回は、その本選の2回戦から「一手」を選びました。相手の牛栄子さんは、当時初段、10代のバリバリの若手です。プロになったばかりですけれど、タイトル戦の挑戦者になられたこともあり、年齢のわりにと言ったら失礼なんですけど、すごく落ち着いていて強いなという印象がありました。私は初手合の若手には、勝った記憶がないのですね(笑)。でも、いつも心がけているように、勝敗のことを考えると結果が伴わないので、一手一手しっかり打てたらいいなと思って臨みました。

今、私が白66とボウシした局面です。ここまで黒は四隅に地を取っており、白は上辺と左辺、Aのオサエに回れば右辺も地がつくという状況で、次に白Bの三々を狙っていました。黒Cと三々を防いでくれば、白Aでゆっくり打ちつつ、場合によっては中央の黒への攻めも見ようかなと思っていました。ここで黒Cの守りに代えて黒67とハネてきたのが厳しい一手でした。白68と裂きましたが、当然、黒69とアテてきました。
※後半は『NHK囲碁講座』2019年1月号に掲載しています。
※この記事は2018年11月25日に放送された「シリーズ一手を語る 矢代久美子六段」を再構成したものです。
■『NHK囲碁講座』2019年1月号より

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