よりどころたる「家」を詠む

『NHK短歌』2019年1月号では、「かばん」会員の東 直子(ひがし・なおこ)さんが、生活の拠点であり、心のよりどころでもある「家」を題材とした短歌を紹介します。

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朝、目覚めたらそこにいる場所。ドアをあけて出ていっても、必ず戻ってくる場所。家は、一人一人にとって、物理的にも心理的にもよりどころです。また、よりどころを同じくする家族と一緒にいる場所でもあります。
うすきグラスに松の香の酒みたしたり八十葉(やそは)影さすふたり正月

馬場あき子(ばば・あきこ)『記憶の森の時間』


お正月に、夫婦二人でお酒を飲んでいる場面です。「松の香の酒」とは、おそらく杜松(ねず)の実で香りづけをした蒸留酒「ジン」のことだと思います。うすい洒落(しゃれ)たグラスに、ジンをベースにしたカクテルを入れているのかもしれませんね。
「八十」は「たくさん」の意を示しますので、たくさんの葉の影が二人で向かい合っている部屋にさしている、と詠んでいます。窓から深く入ってきた元旦の朝の光が、長年育ててきた庭の木々の緑の形を影として伝えているのです。八十葉の影は、長い時間を一緒に生きてきたことの証(あかし)でもあります。しみじみとした感慨が、しずかに伝わります。
この家に住みて住まざる息子なり夜に帽子をかぶり出てゆく

吉川宏志(よしかわ・ひろし)『鳥の見しもの』


すっかり成長した子どもは、まだ一緒に住んではいるものの、出かけることが多く、あまり家にいないのでしょう。家で一緒に食事を摂(と)ることも少なくなり、時には夜に出かけてそのまま次の日まで戻ってこない、ということもあるのではないかと思います。そういった状況を「住みて住まざる」と表現したのです。夜に帽子をかぶって出かけていく息子。顔を見られないように、少しうつむいて歩いている様子が見えるようです。だんだん離れていく子どもに対して一抹の淋(さび)しさを感じつつ、仕方がないな、とも思っているようです。
■『NHK短歌』2019年1月号より

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