俳句で出会う土地

「群青」共同代表、「銀化」同人の櫂未知子(かい・みちこ)さんが、地名が効果的に詠み込まれた俳句を紹介します。

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『NHK俳句』2018年12月号 「俳句さく咲く!」のテーマは、「素敵な土地に出会いたい」です。
先月のテーマは「プレゼントしたい句」でしたが、実はそこに通ずるものがあるのです。さて、なぜでしょう。
特定の誰かに贈りたい句がある一方で、俳句では、出会った土地に対する敬意や、その地名を尊重したい気持ちが湧(わ)き上がってくることが多いのです。それは、もともと有名な地名に対してであったり、それとは全く異なり、知られていなかった土地の名を(結果的に)高めることになったりと、さまざまです。よく知られている地名の例をまずは挙げてみましょう。
東京を一日歩き諸葛菜(しょかつさい)

和田悟朗(わだ・ごろう)


「諸葛菜」は大根の花に似た薄紫の可憐(かれん)な花です。園芸などで大切にされる花ではなく、しかし、よく目にするものです。作者は関西の人でしたから、たまの「東京」は慣れぬ地であり、どこかしら徒労にも似た「一日」を過ごしたのかもしれません。この句、日本人なら皆が知っている地名、しかし、実は茫漠(ぼうばく)たる地名をよく生かしています。
新宿ははるかなる墓碑鳥渡る

福永耕二(ふくなが・こうじ)


東京の中でも印象的な地といえば、ある人にとっては銀座や渋谷、あるいは原宿かもしれません。お台場かもしれません。そして、高層ビルの密集している「新宿」でしょうか。この句を初めて目にした時、「ああ、十代のころに私が感じたことを、とっくに作品にしていた人がいたのだ」と感銘を受けました。
これはどういうことかというと、十四歳の正月休みに圧倒的な西新宿のビルを見て、ぽかんと口を開けていたことを思い出したからです。今ほどビルの数はありませんでしたが、「これが東京か」と思ったことを今でも覚えています。雪と氷の北海道から来た少女にとって、あの姿は驚異であり、脅威でもありました。幼稚園時代から二度来ていたのに、東京はある日突然、変貌(へんぼう)していたのでした。
■『NHK俳句』2018年12月号より

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