茶事に招かれたら–客の作法

客は席に入ると床の前に進み、扇子を前に置いて一礼し、床の間の掛け軸や花などを拝見する。床の間前一畳はあけて座り、拝見する 撮影:竹前 朗
茶事に招かれたときの心構えと留意すべきことを、藪内流宗家14世家元の藪内 紹智(やぶのうち・じょうち)さんに伺いました。

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■茶事に招かれたら

茶事に招かれるということは、亭主にとってかけがえのない茶友ということです。事前に内々の茶事への招きの打診があり、その後正式に封書で「御茶一服差し上げたい」という旨の案内状が届きます。そこには茶事の趣旨・場所・時間が書かれており、連客の名も添えられています。客はそれを承り、なるべく早く返信をします。前日には前礼と言って招く側の亭主を訪問し、茶事に招かれたことへの礼を述べます。これはお礼の気持ちを伝えるのと同時に、当日にかかる所要時間などを調べる意味があります。準備に忙しい亭主に迷惑がかからないよう、この日の挨拶は玄関先で手短に済ませるようにします。
服装は派手なものは避けます。男女とも、茶事には和服がふさわしいです。男性は袴(はかま)をつけ羽織は着用しません。女性も羽織は着用しません。茶事の趣旨によって男性は紋付、それも五つ紋、三つ紋、一つ紋とさまざまです。女性の場合は訪問着、付け下げなどがあります。これも茶事の趣旨に従えばよいでしょう。洋服の場合も派手なものは避け、相手に失礼にあたらないように心がけます。白靴下を準備し、履き替えます。香水などのにおいのきついものは茶の香りの邪魔をしますのでつけません。
当日案内状に書かれている時間の三十分前くらいを目安に伺います。早すぎると準備ができていない場合があり、遅くなると連客を待たせ、自身も気持ちに余裕がなくなり、茶をいただく気分を害することになりますので注意します。

■持ち物とふるまい

茶事に招かれた場合、どんな持ち物を準備するかは時によって違いますが、どんな場合にも必要なのは扇子、懐紙、出しぶくさ、楊枝(ようじ/菓子切り)です。
扇子は茶席での挨拶に必要で正客、連客にかかわらず、ひざ前に置いて相手と隔てることで礼を尽くす、という意味があります。大小で男子用、女子用の区別があります。
懐紙は菓子をいただくときのお皿の役目をします。また茶碗の拝見のときに下に敷きます。お茶をいただいたすぐあと、お茶が残っていても畳を汚すことなく茶碗の拝見ができますし、茶碗を畳でじかに拝見しない丁寧な扱いにもなります。また濃茶のときは飲み口を拭うのにも使うといった多様な使いみちがあります。白い和紙を重ねて二つ折りにしたもので大小があり、男女の別になっています。
茶の湯で使うふくさは出しぶくさと点前ぶくさがありますが、客として必要なのは出しぶくさです。大きさはいずれも畳の目、縦二十一目、横十九目が基本です。出しぶくさは濃茶をいただくときに使います。亭主もふくさを添えて出しますが、客は自分の出しぶくさを二つ折りの状態で茶碗をのせて使います。また拝見のときに茶入や棗(なつめ)などの下に敷きます。この出しぶくさはさまざまな模様や織り方で絹布のものが一般的ですが、綿布もあります。
楊枝は木製、金属製などがあり、菓子をいただくのに使います。亭主が黒文字を用意する場合もあります。
こうした諸道具を数寄屋袋(すきやぶくろ)と呼ばれる袋に入れて携行します。藪内流はふくさのサイズが大きいため、数寄屋袋も大きなものを使用します。
茶席でのふるまいの基本として、指輪や時計などは寄付待合ではずしておきます。茶席では、必ず入口で座り、扇子を前に一礼して膝行(しっこう)で入室します。入席したら、床の間の前に進んで、掛け軸、花、花生、香合などを拝見します。続いて点前座(亭主が点前をする場所)に進み、点前座の飾りを拝見します。連客が拝見しているとき正客は仮座をして待ち、お詰め(末客)の拝見が終わるころに客座につきます。
■『NHK趣味どきっ!茶の湯 藪内家 茶の湯五〇〇年の歴史を味わう』より

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茶の湯 藪内家 茶の湯五〇〇年の歴史を味わう―家元襲名披露茶事に学ぶ (趣味どきっ!)
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